コンプライアンスの重要性が叫ばれている昨今、自社での取り組みを強化したいと考えている担当者や経営者は少なくないはずです。コンプライアンス強化は、企業経営に欠かせない重要な戦略の1つです。そこで、企業のコンプライアンス推進担当者に向けて、コンプライアンスが注目される背景や重要性、強化に関する具体的な進め方について解説します。
コンプライアンスとは?
コンプライアンスという言葉を知っている人は多いでしょう。日本では「法令遵守」と訳されます。ビジネスシーンにおいて、企業がコンプライアンスを守るということは、単に法律や社内規則を守ることだけにとどまりません。企業を取り巻くあらゆるステークホルダーに対し、社会的に求められる倫理観や道徳観に基づいて行動するという広範囲の意味で捉えるのが一般的です。
ステークホルダーとは、企業と利害関係にある株主や顧客、取引先、従業員、地域社会などのことを指します。また、環境活動や寄付活動、ボランティアなど、企業活動を行うにあたって担うCSR(企業の社会的責任)も、コンプライアンスの1つとなります。
コンプライアンスが注目される背景
企業経営において、コンプライアンスの重要性が叫ばれるようになったのは、2000年以降のことです。その背景について、2つのポイントに絞って解説します。
相次ぐ企業の不祥事
2000年代に入ってから、食品偽装や耐震偽装事件、粉飾決算など、大企業を中心とした不祥事が次々と明るみにでました。さらに、その後の対応に失敗した企業は、顧客や消費者からの信用を失い、破綻するというケースが相次いだのです。
重大な法律を犯した場合、世間から向けられる目は大変厳しく、業界シェアトップクラスの大企業であっても、社会的信用の失墜は免れません。
国内のみならず米国でも、粉飾決算による不祥事で、大企業の倒産が相次ぎました。多発する会計不正に対応するために、監査の独立性や財務情報開示の強化などを目的とする企業改革法が2002年に制定されました。相次ぐ企業の不祥事と、それを取り締まる体制整備の動きが、企業のコンプライアンス精神が重視されるようになった背景の1つです。
SNSの普及
2つ目の背景は、SNSの普及によりマスメディアを介することなく、個人が直接情報発信できる時代になったことが挙げられます。企業内でコンプライアンスの違反が発覚した場合、従業員がSNS上で内部情報を発信する可能性もあります。情報が発信されれば、コンプライアンスの徹底されていない企業イメージが世間に広がり、顧客からの信用は著しく低下するでしょう。また、企業によっては公式アカウントを開設し、デジタルマーケティングを行っていることもありますが、そこでの投稿にコンプライアンスに欠けた内容が見て取れると、顧客の不信感が募り「炎上」してしまうケースもあります。
従業員による不適切な投稿も増えています。情報化社会においては、たとえSNS上であっても道徳観に沿った言動が求められるのです。何気なく投稿した内容が、会社の機密情報であったり、一般常識からかけ離れた言動であったりすると、それらを見たユーザーから反感を買うことがあるのです。このような問題ある言動が発覚した場合、当人だけでなく企業への原因追及も考えられるでしょう。
コンプライアンスの重要性
コンプライアンスはなぜ企業にとってそれほど重要なのでしょうか。2つの観点から解説します。
リスクマネジメントの一環
まず、コンプライアンスを強化するということは、すなわち企業のリスクマネジメントを強化するということです。コンプライアンスに違反して、ステークホルダーの信用を裏切ってしまった企業には、法的もしくは社会的な制裁が下されることになります。消費者や顧客離れによる売り上げ低下にとどまらず、マイナスのイメージを挽回できないとなれば、最悪の場合、倒産する恐れも出てくるでしょう。コンプライアンス違反によって、企業が受けるダメージは計り知れません。
しかも1人の従業員の行動が、企業全体のイメージに甚大な影響を及ぼす可能性も十分に考えられるのです。経営層や従業員の意識を改め、コンプライアンスを遵守する仕組みを整えることは、企業の経営悪化や倒産などのリスク軽減に必要不可欠と言えるでしょう。
社会的信用の維持
コンプライアンス強化を徹底し、それを対外的にアピールすることで、クリーンで安心なイメージを顧客に与えられます。性能や価格が同等であれば、社会的信用の高い企業の製品を選びたいと思うのは当然の心理です。コンプライアンスという言葉は、マスメディアを通じて世間一般にも浸透しており、性能や価格以上に、社会的信用度に重きを置く消費者も増えています。つまりコンプライアンス強化は、安定的な収益確保に結びつきやすい取り組みと言えるでしょう。
コンプライアンス強化の活動は、コストがかかる割に企業の利益に直結するものではないと考えられ、経営上の意思決定とは切り分けられていた時代もありました。しかし、クリーンで安心感のある企業が好まれる昨今では、コンプライアンス強化は経営の安定性を図るために重要な経営戦略の1つでもあります。
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コンプライアンス強化の具体的な方法
コンプライアンス強化の重要性を理解したところで、ここからはコンプライアンス強化の具体的な方法を見ていきましょう。コンプライアンス強化の方法には大きく次の4パターンがあります。順番に解説していきます。
経営層の意識改革
利益追求主義が強い企業では、トップや経営層に倫理観の麻痺、社会常識の欠如が見られる傾向が強いとされています。特に、ワンマン経営で部下が進言しづらい雰囲気があったり、極端な成果主義に偏ったりしている職場では注意が必要です。経営層の考え方は従業員にも大きな影響を及ぼします。コンプライアンス強化においては、経営層の意識改革から取り組むべきでしょう。
倫理観が欠如した考え方が社内に蔓延して企業体質化すると、自浄作用が利かなくなり、自社の利益の追求だけに躍起になる行為を誰もとがめなくなります。第三者が指摘したときには、取り返しがつかないほど事態が深刻化している恐れもあります。
従業員教育の徹底
企業コンプライアンスの形成には、従業員一人ひとりの公平で誠実な行動が必要不可欠です。倫理観や道徳観は時代の流れと共に少しずつ変化していくので、行動規範集や社内規定は定期的に見直す必要があります。
更新する際には、法改正や時代に即した内容に変え、従業員に改めて企業理念や使命感を浸透させる必要があります。また、コンプライアンスに特化したマニュアルやハンドブックを配布することも有用です。その際、違反があった場合にどのような罰則があるかも明記しておくのがポイントです。
コンプライアンス意識は、短時間の教育で浸透するものではありません。常に意識を高く保たせ、いざというときに模範的な行動を取ってもらうためには、従業員へのコンプライアンス教育を継続的に実施することが大切です。オンライン上で完結できるe-learning を導入し、教育側の負担を減らすのも1つの手段であり、テレワークが当たり前のニューノーマルでは必須と言えるでしょう。また、従業員が自分のペースで受講できるのもe-learningのメリットと言えるでしょう。
コンプライアンス対策室の設置
コンプライアンス強化にあたっては、人事や総務の担当者が兼任する場合も多いでしょう。コンプライアンスへの取り組みを重視する企業では、専門部署を設けて強化に取り組んでいるケースも珍しくありません。規模が小さい企業では難しいかもしれませんが、コンプライアンスを統括する部署を設置することには、大きく2つのメリットがあります。
まず、社内におけるコンプライアンスの位置づけが高くなります。次に、一過性の方策ではなく、恒常的に従業員にコンプライアンス意識を植え付けやすくなります。このほか、第三者視点を強化するために、事業部門から半独立したコンプライアンス組織・委員会の体制を作ることも有用です。
内部通報制度の導入
組織の中にお互いをけん制し合い、不正を見つけたときに指摘する風土が無いことも、問題を深刻化させる一因と言えます。コンプライアンス強化において、大きな役割を果たす取り組みの1つが内部通報制度です。内部通報制度とは、コンプライアンス違反やその芽となる事案を見つけたとき、発見した従業員がコンプライアンス対策室や委員会に報告する制度のことです。
この制度は、コンプライアンス違反を芽の段階で摘み取り、事態の深刻化・重大化を防ぐことを目的としています。つまり、報告が早ければ早いほど、問題が大きくなる前に収束させられる可能性が高まります。この仕組みを機能させるためには、躊躇せずに通報できる環境を整えることが大事です。具体的には、法律上及び社内ルール上、不利益な扱いを受けないように保護する、匿名性を守るなどの配慮が求められます。
まとめ
コンプライアンスの強化は、企業存続に関わる重要な経営戦略の1つです。紹介した方法を取り入れて、徹底していきましょう。業務で使用するツールをよりセキュリティが高いものにして、情報ガバナンスを強化する、例えば、機密情報保護や情報漏えい防止などを徹底することも、コンプライアンス強化の一環なのです。
例えばファイルサーバーを見直すこともおすすめです。機密情報や顧客情報を取り扱う企業におすすめしたいのが、アクセス権限設定やユーザー認証、アクセスや操作ログの取得と監視といった多数のセキュリティやガバナンス機能を有するクラウドストレージサービスの導入です。こういった新しいIT環境を導入すれば、社内の工数負担を軽減しつつ、よりコンプライアンス高く、安心・安全に業務を進められます。
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