働き方改革やDXの促進が叫ばれる中、さまざまな業務改善の取り組みをする企業が増えています。効率化を図り生産性を向上させるには、業務プロセスを正しく整理する業務棚卸が欠かせません。本記事では、業務棚卸が重視されるようになった背景やその重要性、活用できるフレームワークについて解説します。
業務棚卸とは
業務棚卸とは、部署ごとや従業員一人ひとりが抱える業務を洗い出し、整理することです。「どのような業務があるのか」「どれくらいの時間をかけているのか」「どれくらいの頻度で行っているのか」「どれくらいのコストを要しているのか」といった自社の現状を把握するのです。業務棚卸を行えば、業務効率化の実現に向けてどのような対策を講じればよいのかが明確に見えてきます。
業務棚卸が注目される背景
業務棚卸が注目されるようになったのは「働き方改革」の取り組み、「DX」の推進、「ニューノーマル」時代の働き方に対応する必要性が高まったためと考えられています。
働き方改革とは、労働の効率化を実現するほか、個々の事情に合う働き方を選択できるようにするための改革です。日本の少子高齢化は、年々深刻化しています。労働人口の減少が避けられない現実の下、少ない人数で高い生産性を発揮するには、既存業務を正しく把握したうえで効率化を図らなければなりません。そのため、業務棚卸は働き方改革に向けた第一歩ともいえるでしょう。
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略であり、クラウドを含めICT(情報通信技術)の活用により、既存のビジネスモデルや業務プロセスをより良い方向へと変革させていく取り組みを指します。日本は他の先進国と比べてICTの活用が後れていると評価されており、このままでは2025年以降に大きな経済損失が起こると経済産業省が警鐘を鳴らしています。
DXの推進を図るためにも、業務棚卸は欠かせません。自社の抱える課題をどう解決していくか、どの業務にICTが活用できるのかが業務棚卸により明らかになります。
新型コロナウイルスの影響により、これまでとは違う働き方に対応する企業が増えました。社会の大きな変化により、テレワークをはじめとした新しい生活様式が急速に普及し、仕事は会社で行うものという従来の常識が覆されたのです。ニューノーマル時代となり、非対面でどう業務状況を把握していけばいいか、どのようにコミュニケーションを取っていけば組織力が維持できるかなど、企業はこれまでとは違った課題に直面しています。
各業務の関連性やどの業務に負担がかかっているのかを見つけ出す業務棚卸は、ニューノーマル時代の対応策を考えるうえでも非常に重要な意味を持ちます。
業務棚卸の方法
業務棚卸を成功させるためには、いくつかのステップが必要です。単に業務を書き出すだけでは効果に結びつきにくいため、適切な方法をあらかじめ理解しておきましょう。ここでは、業務棚卸を適切に進めるための「目的の設定」「業務の実態調査」「業務の仕分け」「業務改善計画の策定と実行」の4つのステップについて解説します。
ステップ1. 目的の設定
最初に明確にしておきたいのが、最終的な目的です。何を目的に業務棚卸を行うのかをはっきりさせたうえで、業務棚卸の対象となる範囲、どう分類していくかなどの粒度を決めていきます。具体的な例としては、製品の品質向上、コスト削減、業務の属人化の解消、納品サイクルの短縮化などが挙げられます。決めた目的によって、調査対象が変わってきます。
ステップ2. 業務の実態調査
目的に関連した業務の洗い出しを実施します。実態調査を行う際は、現場への負担が軽減されるようアンケート形式(業務調査票)で行うのが一般的な方法です。業務フローや潜在的なリスクへの対応法、どれほど時間を要するのかを的確に把握するために、必要に応じて管理・監督者へのヒアリングも行います。
なお、業務内容の名称や仕事単位は、個々で捉え方が異なるケースも考えられます。重複を防ぎ統一化を図るためにも、アンケートは選択式での作成が望ましいでしょう。
ステップ3. 業務の仕分け
アンケートが回収できたらその情報に基づいて業務を仕分けます。「複数の部署や担当者が重複した作業を行っていないか」「コストに見合わない仕事に余計な労力を割いていないか」「特定の部署や担当者だけに業務が集中していないか」など、多角的な観点から既存業務をレビューしていく作業です。
継続する価値がないと判断される業務があれば、この時点で削除してしまえば業務棚卸の効率化が図れます。
ステップ4. 業務改善計画の策定と実行
業務の仕分けが完了したら、業務改善計画を作成して実行に移します。業務プロセスは複雑に入り組んで構成されているため、実施した施策が思い通りの効果につながらないケースもあるでしょう。業務改善は一度実施したらそれで終わりではありません。その後も継続的に効果を測定し、PDCAサイクルを回し続けていくことが大切です。
業務棚卸を実施するメリット
業務棚卸を実施すると、誰がどの範囲まで担当しているのかが明確に把握できるようになります。業務が集中している部署があれば、別の部署に割り振りをして業務量を揃えることも容易に実行できます。発生する業務に対して、どれだけの人材とコストがかかっているかを明らかにできるのもメリットです。
リソースが不足している場合は、ICTを活用し自動化できるソフトを導入したり、アウトソーシングしたりするほうが、生産性の向上やコスト削減につながるケースもあります。日常的に行っている業務を整理して可視化すれば、既存の業務プロセスに潜む非効率性や属人化などの問題も発見できます。DX推進に必要と言われるのもこういった理由からなのです。
また、業務が可視化されれば、各従業員は自分がどのような役割を果たしているのかを再確認できるでしょう。さらに、自分の課題が明らかになるなど、業務棚卸は自律的に働ける環境の整備につながります。そのため、モチベーションアップやエンゲージメントの向上といった副次効果に期待できるのも利点です。
繁忙期や閑散期が前もって把握できれば、適切なリソース再配分など有効な対策が講じられます。蓄積されたデータから将来の業務を見通せるようになれば、リスク回避や収益向上にも結びつくでしょう。
業務棚卸のフレームワーク
業務棚卸を進めるために有用なのがフレームワークの活用です。業務がどう進められているか、どれだけの従業員が関わっているのか、各業務の価値を詳細に洗い出して見える化し、従業員一人ひとりの効率化を目指します。ここでは、業務棚卸によく用いられる3つのフレームワークを紹介します。
ECRS(イクルス)
ECRS(イクルス)とは「Eliminate(排除)」「Combine(結合)」「Rearrange(再配置)」「Simplify(単純化)」の頭文字を取った名称です。実際に業務改善は、この順で行っていくと効率よく進められます。既存の業務からムダな作業やコストに見合わない作業を取り除き、重複している業務や似た業務をひとつの業務プロセスへと統合します。
場合によっては結合を分離に置き換えたり、再配置よりもDX下ではICT活用による自動化で代替することもあるでしょう。ECRSは、業務改善効果の高い手法といわれています。
バリューチェーン分析
バリューチェーンとは「価値の鎖」を意味します。原材料の調達から商品・サービスが顧客の手に渡るまでの一連のプロセスにおける付加価値を評価・分析するための手法です。対象とする事業に関連した活動を分類してリストアップを行い、活動ごとのコストを分析して収益性を分析します。
バリューチェーン分析を通して、現状把握や自社の強み、弱みを正確に捉え、コストの最適化や競合との差別化に効果的な戦略立案を可能にします。
BPMN(ビジネスプロセスモデリング)
BPMNとは「Business Process Modeling Notation」の略称であり、国際標準(ISO19510)にもなっている業務フローです。フローチャートを用いて、複雑化した業務プロセスを誰が見ても分かりやすい状態に図式化する方法です。
共通のフォーマットを用いて業務フローを見える化できれば、部署間でのやり取りがスムーズに行えます。組織全体で共通認識を持てるようになれば、より良いプロセスに向けた改善策が講じられるはずです。
まとめ
業務棚卸に有用なフレームワークやICTツールを活用すると、業務改善を効率よく進めていけます。業務改善の中でも、業務に欠かせないコンテンツに注目すると多くのことが発見でき、業務改善や効率化に結び付けられます。業務フローごとや人、部署ごとと想像以上に業務コンテンツは散在しており、これらを集約し、一元的に管理、活用できるようにすると、多くの業務やプロセスを最適化、改善できるのです。業務改善の際には、ぜひ各業務コンテンツがどう管理されているかにも注目して棚卸をしてみることをおすすめします。
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