近年、デジタル化の進展とともにクラウドファーストの潮流が加速しており、ファイル共有基盤をNASからクラウドストレージに移行する企業が少なくありません。本記事ではNASとクラウドストレージのメリット・デメリットについて解説するとともに、NASからクラウドストレージに移行することをおすすめする理由を8つ紹介します。
NASとクラウドの特徴と違い
まずはNASとクラウドストレージの特徴と違いについて簡単に解説します。
NASとは?
NASは「Network Attached Storage」の頭文字をとった略称で、ネットワーク接続型のHDD(ハードディスクドライブ)を指します。ネットワーク接続と言っても、社内LANなどの閉じたネットワーク内に置かれているのが特徴です。
一般的なHDDとの大きな違いは、ネットワークを介して複数の端末とファイルを共有できる点です。基本的にHDDはコンピュータと一対一の関係性でファイルを共有します。それに対してNASはルーターやハブなどを介したネットワーク接続により、複数台のコンピュータとファイルを共有可能です。NASは一対多の接続が可能となるため、社内LANに接続されたすべてのユーザーがファイルを共有できます。
クラウドストレージとは?
クラウドストレージとは、クラウドコンピューティングを基盤とする仮想サーバーを介してファイルを管理・共有するストレージサービスです。
クラウドストレージとNASの決定的な違いは、物理的なハードウェアを必要とするか否かという点にあります。クラウドストレージはサービス事業者のサーバー上でファイルを管理するため、NASのように物理的なハードウェアの導入を必要としません。そのため、ファイル共有基盤の構築における初期費用とインフラストラクチャの保守・運用コストを削減できます。
NASのメリットとデメリット
社内LANを介してファイルを共有するNASには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
NASのメリット
クラウドストレージはハードウェアの導入は不要ですが月額課金制のサービスが多く、原則として毎月のサブスクリプション費用が発生します。NASはハードウェアの導入にコストを要するものの、サブスクリプション費用は発生しません。そのため、クラウドストレージと比較して運用面のコストを安価に抑えられる点がメリットです。また、ストレージ全体を組織内で共有できるため、容量を無駄なく効率的に運用できます。そして社内LANの閉じたネットワークでファイルを管理できるので、外部の不正なアクセスに晒されるリスクが低いというメリットもあります。
NASのデメリット
NASのデメリットはハードウェアの故障によってデータが破損・消失するリスクがある点です。とくに小規模事業者や中小企業の場合、NASを組織のファイル共有基盤として運用しているケースも少なくないため、データの破損・消失リスクに備えて冗長化を図る必要があります。また、NASを導入するためには物理的な設置スペースを確保しなくてはならず、さらに機器の選定や初期設定、社内LANへの接続やデータの転送、アクセス権限の設定などに関して相応の知見を有するIT人材が必要です。
クラウドストレージのメリットとデメリット
ここではクラウド上の仮想サーバーでファイルを共有するクラウドストレージのメリットとデメリットについて解説します。
クラウドストレージのメリット
クラウドストレージはPCとインターネット環境さえあれば、基本的にサービス利用契約のみで導入が完了します。そのため、NASのように導入と設置に専門的な知識を必要としません。また、物理的なハードウェアが不要なため、ITインフラの保守・運用にリソースを割く必要がなく、情報システム部門の業務負荷を大幅に軽減できる点がメリットです。クラウドストレージは時間や場所といった制約に縛られることなくファイルにアクセスできるため、リモートワーク環境における情報共有の効率化と労働生産性の向上に寄与するという利点もあります。
クラウドストレージのデメリット
クラウドストレージのデメリットは、サービスとして提供される機能の範囲内でしかカスタマイズができない点です。そして先述したように、毎月のサブスクリプション費用が発生するため、ランニングコストがNASよりも多くかかる場合があります。また、クラウドストレージはオンラインのパブリック環境でデータやファイルを共有するという性質上、不正アクセスによる情報漏洩や、サービス事業者のマルウェア感染によるセキュリティインシデントが懸念されます。
NASからクラウドストレージにデータ移行すべき8つの理由
NASとクラウドストレージはそれぞれに一長一短があり、どちらが優れているとは一概に断定できません。しかし現代市場における企業のファイル共有基盤として運用するのであれば、クラウドストレージの利用が推奨されます。その理由として挙げられるのが以下の8点です。
1. ストレージ容量の拡張が容易
現代はデジタル化の進展によって情報爆発時代と呼ばれており、企業が事業領域で運用するデータの総量は年々増加していく傾向にあります。NASのストレージ容量を拡張する場合、空きスロットにHDDを追加する、あるいは大容量のHDDと交換するといった物理的な作業が必要です。
それに対してオンラインストレージはハードウェアを増設する必要がなく、管理画面から利用プランを変更するだけで簡単に容量を増やせます。また、クラウドストレージによっては容量無制限のプランを用意しているサービスもあります。
2. 運用保守コストを削減可能
繰り返し述べているように、クラウドストレージは物理的なハードウェアを必要としないため、ITインフラの保守・運用コストを削減できます。NASのようにハードウェアを定期的に点検する必要もないため、情報システム部門の保守・運用における業務負荷を大幅に軽減できます。節約できた時間を、収益性の向上に直結するコア業務に充当できる点が大きなメリットです。
3. 故障によるデータ紛失のリスクを軽減
NASはHDDの故障やネットワーク障害の発生により、ファイルが破損・消失するリスクがあります。何らかのインシデントが発生した場合、機密度の高い重要なデータが失われる可能性があるとともに、復旧作業に多大なリソースを割かなくてはなりません。クラウドストレージなら、自社のITインフラに問題が発生してもデータやファイルが失われることはなく、万が一不具合が発生しても復旧作業はサービス事業者の対応領域となります。
4. BCP対策として有効
クラウド利用はBCP対策(事業継続計画)にも有効とされています。日本は地震大国であり、事業の継続性を確保するためには自然災害の発生に備えてITインフラのバックアップ環境を整備しなくてはなりません。万が一地震や火災によってNASが破損した場合、HDDに保管されているデータやファイルが失われるリスクがあります。クラウドストレージであれば、サービス事業者のデータセンターにファイルが保管されるため、自社に災害が発生してもデータの破損・消失を防げます。
5. 専門のIT技術者が不要
国内では総人口の減少と高齢化が加速しており、その影響も相まってIT人材の確保が困難になりつつあります。経済産業省とみずほ情報総研株式会社の「IT人材需給に関する調査」によると、2030年におけるIT人材の不足数は中位シナリオで約45万人に達する見込みです。ファイル共有基盤をNASからクラウドストレージへ移行することで、IT人材を採用・育成する必要性を低減することができるため、少子高齢化に伴う人材不足を補う一助となります。
参照元:IT人材需給に関する調査(p.20)|経済産業省・みずほ情報総研株式会社
6. 多様な働き方に対応
近年、働き方改革や新型コロナウイルスの影響により、リモートワークを導入する企業が増加しています。リモートワーク環境のファイル共有基盤としてNASを利用する場合、安全性を担保するために仮想プライベートネットワークのVPNを介してアクセスするのが一般的です。しかしVPNは環境の整備と運用のための人材教育に相応のコストを要します。それに比べてクラウドストレージは、インターネット上で公開されているという特性上、安全性を確保する仕組みが、もともと備わっており、VPNは基本的に不要です。時間や場所などの制約を受けないセキュアなファイル共有基盤を容易に実現できるため、リモートワークのような新しい時代に即した働き方に適しています。
7. セキュリティ対策が容易
先述したように、NASは社内LANの閉じたネットワークで運用されるため、外部の不正アクセスに晒されるリスクが低いというメリットがあります。しかし安全性を担保するためには、ファームウェアの最新化やHDDの暗号化といったセキュリティ対策が必要です。もともとクラウドストレージはパブリック環境でファイルを共有する性質上、情報漏洩インシデントが懸念されていたものの、近年はISO規格の国際的なセキュリティ認証を得ているサービスが多く、セキュリティリスクに対する不安は払拭されつつあります。
8. 社内外での情報共有が容易
社内のみならず、社外との情報共有が容易になる点もメリットです。働き方の多様化が加速するなかで社内外のコラボレーションを活性化するためには、情報共有の円滑化を図る仕組みが求められます。社外からNASの共有ファイルにアクセスする場合、VPNを介するのでアクセスの集中によってレスポンスが低下するケースが少なくありません。クラウドストレージは社外からでも共有ファイルにセキュアかつスピーディーにアクセスできるため、社内・社外を問わないコラボレーション基盤の構築に寄与します。
コンテンツ管理なら「Box」
ファイル共有基盤のクラウドへの移行を検討しているのであれば、「Box」を検討してみてはいかがでしょうか。Boxは情報セキュリティに関する国際認証「ISO 27001」を取得しているクラウドサービスであり、さらに他社のアプリケーションとの連携性に優れています。また、法人向けの「Business」以上のプランであればストレージを容量無制限で利用できます。セキュアなコンテンツ管理基盤を構築し、DXの実現を目指すためにもBoxの導入をご検討ください。
まとめ
NASはネットワーク接続型のHDDであり、物理的なハードウェアを必要とします。クラウドストレージは仮想サーバーを介してファイルを管理するサービスです。ファイル共有基盤をNASからクラウドストレージに移行すると、ストレージ容量の拡張が容易になる、運用保守コストを削減できる、故障によるデータ紛失のリスクを減らせる、といったメリットがあります。
ただし、クラウドストレージはカスタマイズ性が低く、パブリック環境でリソースを共有するという性質上、セキュリティの脆弱性を懸念する声も少なくありません。セキュリティと連携性に優れるBoxであれば、さまざまな要件に対応できるとともに、セキュアな環境でファイルを安全に管理・共有することができます。
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