今ある会社、今ある事業の10年後・15年後を想像したことはありますか?
デジタルテクノロジーの急速な発展によって市場が大きく変わろうとしている現代社会において、デジタル技術を取り入れずに「現状維持」を貫く企業が果たして将来的に生き残るものでしょうか。その答えはおそらくNoでしょう。経済産業省はかねてより「2025年の崖」として警鐘を鳴らしており、それは10年後・15年後の話ではなく、すぐ目の前にあるのです。デジタルテクノロジーの活用の遅れによって陥ると指摘されているこの崖に対して、乗り越えるだけの体制を持っている企業はまだまだ少ないのが実情かもしれません。
ここでご紹介するのは、今を生き抜く企業に欠かせないとされているデジタルトランスフォーメーション(DX)です。多くのメディアで語られているこの言葉ですが、その意味や本質を理解してないという方は未だ多いようです。この機会にぜひ、あらためてデジタルトランスフォーメーションについて理解を深めていただければと思います。
デジタルトランスフォーメーションは単なるIT化ではない
デジタルトランスフォーメーションという言葉を聞いて、社内でまだIT化されていない部分へ積極的にデジタルテクノロジーを取り入れてIT化を進めること、とイメージしているとすれば、そこには誤解があるかもしれません。言葉だけを捕まえれば「デジタルの変革」という意味なので単純なIT化をイメージしがちですが、実際はIT化という単純な発想ではなく、「企業がビジネス、商品・サービス、文化、風土、人材の起用方法など、あらゆる要素を変革するためのデジタル活用」ということになります。
デジタルトランスフォーメーションという言葉が初めて使われた2004年。提唱者であるスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授は、デジタルトランスフォーメーションを「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことと定義しています。この時はまだ、「デジタルが大衆の生活を変える」程度の概念でした。その後、スマートフォンの急速な普及による消費者行動の変化など、社会現象とも言える大きな変革が訪れました。
現在のスマートフォンの原型ともいえる初代iPhoneが発売されたのが2008年の夏であり、これはたった10数年ほど前のことでした。このスマートフォンの普及により、本来はデスクトップあるいはノートパソコンを使用しなければアクセスできないインターネットが、人の手に収まるサイズまで最小化されたことで、人々はインターネットを通じてより多くの情報をやり取りするようになります。これにより商品・サービスに対するニーズは多様化し、かつ消費者自身が情報を積極的に発信するプラットフォームが爆発的に増えたことで、消費者にとって「正しい情報を持って自分のニーズを満たすことができる時代」が到来します。
また、これと並行してIT市場におけるクラウドコンピューティングの台頭、ビッグデータを処理できる環境が整ったことによるデータ分析ニーズの増加、AI及びIoT技術の発展による業務自動化や効率化、そしてビジネスモデルの変革など、数多くのデジタルテクノロジーが企業改革の狼煙を上げ、現在ではビジネスの中心として存在しています。
その中で、「デジタルが大衆の生活を変える」程度の概念しかなかったデジタルトランスフォーメーションへ注目が集まるようになりました。
経済産業省が提唱するデジタルトランスフォーメーションとは
デジタルがビジネスや生活を一変してきたことは、日常の生活から感じ取れると思います。それではデジタルトランスフォーメーションの明確な定義とはなんでしょうか。実はデジタルトランスフォーメーションに世界共通の定義は存在しないのです。前述したエリック・ストルターマン教授の定義は概念的すぎるので、もう少し明確な指標を持つ必要があります。以下は経済産業省が提唱するデジタルトランスフォーメーションの定義です。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”
引用元:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver1.0(https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf)」
この定義からも「デジタルトランスフォーメーション=単なるIT化」ではないことがご理解いただけるはずです。注目すべきポイントは「データとデジタル技術を活用して」と「競争上の優位性を確立すること。」の2つです。
クラウドコンピューティング、データ分析、AIやIoT、モバイルなど昨今のIT業界を盛り上げているテクノロジーを用いた「データを扱うことの重要性」が強調されています。いずれもデータありきであり、データ活用こそがこれらの技術の本質を引き出します。だからこそ、デジタルトランスフォーメーションでは単純にデジタルテクノロジーを搭載するのではなく、データ活用を視野に入れた取り組みが重要です。
では、「競争上の優位性を確立すること。」とは何でしょうか?例を挙げるとすれば、世界的なEC事業者となったAmazonは、1995年に創業者ジェフ・ぺゾス氏の自宅ガレージで産声をあげました。Amazonはインターネットという当時の先進的テクノロジーとビジネスの深い関係性に着目し、書籍のネット販売からスタートします。その後Amazonの勢いは加速し、今では世界中のリアル小売業に多大な影響を与えるほどに成長しました。まさに、デジタルテクノロジーによって絶大な競争優位性を獲得した事例です。
つまりデジタルトランスフォーメーションは、単なるIT化でも、単にデータ活用へ取り組むためでもいけない、大切なことは、デジタルテクロジーを活用して最終的には「強烈な競合優位性を手に入れられるか?」にあるわけです。
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デジタルトランスフォーメーションの始め方
デジタルトランスフォーメーションに決まった手順はありません。だからこそ多くの企業が試行錯誤を繰り返しながら様々な取り組みを実践しているわけですが、視点を変えれば「自由に取り組んで良い」ということになります。
デジタルトランスフォーメーションと聞くと大それた改革のように思われがちです。しかし、デジタルトランスフォーメーションで大切なことは自社が抱えている問題・課題を皆で洗い出し、このままで10年後・15年後のビジネスを生き抜くことができるのか、をまず考えることに他なりません。その上で、様々な問題・課題を解決するために用意されたデジタルソリューションを精査して、導入、活用してみれば良いのです。
ぜひこの機会に、企業競争力強化のための最適な「デジタルトランスフォーメーション」の実践に取り組んでください。
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