2018年9月に経済産業省から発表された『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』が今なお話題となっています。発表したのは経済産業省が2018年5月に設置した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」です。経済産業省では同時に『DX推進ガイドライン』や『攻めのIT経営銘柄2019』なども発表しています。
今回のテーマは、経済産業省がDXレポートでも警告している「2025年の崖」に対して、企業が取るべき戦略、そしてクラウドストレージがどのような役割を果たすのか?についてです。
このレポートで課題とされているように日本企業の多くはレガシーシステムを抱えており、今後5年以内に革新的なシステム刷新を行わなければ、デジタルビジネス時代の敗者になることが予測されています。「2025年の崖」に向けた取り組みを加速させるためにも、ぜひ参考にしていただければと思います。
「2025年の崖」とは?
「2025年の崖」というのは、DXレポートで初めて提唱された日本経済にかつてないダメージを与えるような問題の集合体を指します。経済産業省は、多くの日本企業が「2025年の崖」を乗り越えない限り、日本経済は2025年から2030年にかけて年間12兆円の経済的損失を被ると指摘しています。以下に、具体的な問題を整理します。
経営面
市場変化に対応し、ビジネスモデルを柔軟かつ迅速に変更することができないことでデジタル競争の敗者になる
システムの維持管理費用が高額化し、IT予算の9割以上を維持・管理にかけるような技術的負債が残る
保守運用の担い手不足により、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブル、データ滅失等のリスクが高まる
人材面
2025年までに日本全体でIT人材不足が約43万人まで拡大し、多くの企業が新しいIT戦略に注力できなくなる
メインフレームを担当していたIT人材の退職・高齢化により、古いプログラミング言語を知る人材が供給できなくなる
若く才能あるIT人材がレガシーシステムの保守運用にあたることで、先端IT技術を活用できなくなる
技術面
2017年時点では9:1の関係にあった「従来ITサービス市場:デジタル市場」が6:4の関係になり、デジタル技術活用の重要性が一気に高まる
5Gの実用化、アジャイル開発の主流化、AI一般利用の発展など技術革新により各領域のつながりが強くなる半面、分断化されたシステムを抱え続けることになる
2027年にSAP ERP(SAP Business Suite 7)の延長サポートが終了し、多くの日本企業がレガシーシステムの刷新を求められている(2020年2月にSAP社は2025年から2027年にサポート期間を延長すると発表)
以上の2025年にまとめて起こり得る問題を総じて「2025年の崖」と呼びます。いずれの問題も多くの日本企業にとって、特に事業年数を経ている大企業や中堅以上の企業においては深刻なものと言えるでしょう。
その反面、新興企業はレガシーシステムなど技術的負債を抱えていないことから、最初からデジタル技術を取り入れたデジタルネイティブとしてビジネスに注力できているため、多くの市場においてデジタル技術で従来の市場環境を覆す「デジタルディスラプション」が起こると考えられます。
「2025年の崖」を乗り越えるカギになるDX
日本企業が「2025年の崖」を乗り越えるために必要だと提唱されているのがDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。いわゆる「デジタル技術を駆使した業務プロセスやビジネスモデルの変革」を意味しています。紙を電子化しただけといった単なるデジタル化とは異なり、その先の新しいビジネスモデルや成長モデルの創出を含みます。
たとえば、2025年の崖の象徴としてERPを提供するSAPが語られることが多いのですが、シンプルな解決策として注目されているのもERP(統合基幹システム)です。
ERPには生産管理システムや財務会計システムなど、日本企業がこれまで個別最適化を進めてきた基幹システムが1つに統合されています。そのため、ERPを導入するだけで組織全体の業務プロセスを最適化できる柔軟性の高いシステム環境を構築できるメリットがあります。つまり、今までの部門ごとの分断的な基幹システムを脱ぎ捨て、ERPとして新しく統合的な基幹システムを築くということです。
ただし、課題もあります。多くの日本企業が、今でもレガシーERPや個別最適化されたレガシー業務システムを運用し続けています。その理由の多くは、アドオン開発や改修が膨らむ、基幹システムに依存しきった業務プロセスが作られていることにあります。システムを刷新することでどこにどのような影響が出るのか、把握できていない企業も見受けられます。
そこで経済産業省は、2021年~2025年を「DXファースト期間」と定めて、長期的な計画でレガシーシステムを刷新していくようにと提案しています。まずは既存システムと業務プロセス、それと各システムの変更が業務に与える影響を調査していくことが大切です。また、アドオン開発と改修を繰り返し、長い間運用されてきたレガシーシステムとそれを取り巻く業務プロセスには、今ではビジネスに利益をもたらさない無駄な機能や業務の存在を発見し、整理することも重要です。
そうしてDXを推し進めていくことで、経済産業省では2025年に以下のような姿に変貌することを期待しています。
- IT予算に占める割合を、現在の8:2(ランザビジネス:バリューアップ)を6:4に変化させ、GDPに占めるIT投資額を1.5倍に引き挙げる
- サービス追加やリリースに作業にかかる時間を数か月間から数日間に短縮する
- IT人材分布比率を現在の3:7(ユーザー:ベンダー)から5:5(欧州並み)に変化させる
- IT人材の平均年収を約600万円から2倍程度(米国並み)に引き上げる
- IT産業の年平均成長率を1%から6%に引き上げる
クラウドストレージが担う役割
それでは、「2025年の崖」を乗り越えるためのDXにおいてクラウドストレージが担う役割は何でしょうか。
レガシーシステムをERPやその他のデジタル技術によって刷新し、統合的な基幹システムを構築したとしても、そのシステムが取り扱うファイル管理を従来のようにファイルサーバーに頼っていると、統合環境を上手く活用できなくなります。
そこで必要になるものは、さまざまなシステムと連携してファイル管理を一元的に効率的に管理し、コラボレーションとセキュリティ管理を活発にするためのクラウドストレージです。たとえばクラウドストレージ「Box」は、東京証券取引所の上場会社の中から、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化といった視点から経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業として「攻めのIT経営銘柄」にノミネートされた多くの企業が既に利用しています。ERPやCRM、HCMといった各種基幹システムと連携し、システムを横断して利用されるファイルを一元管理するコンテンツ・プラットフォームとして業務革新を実現可能にする他、ローン申請や口座開設、保険請求や貿易文書管理といったB2Bアプリケーションなどとも連携、統合を可能にします。
このようにクラウドストレージを統合基幹システムや様々なビジネスアプリケーションと連携させることにより、DXはより大きく推進され、「2025年の崖」を乗り越えるだけでなく、ビジネスモデルや製品・サービスに大きな変革をもたらす真のDXを推進することも可能です。こうした背景から、クラウドが基本となるDXの取り組みとして従来のファイルサーバーではなく、クラウドストレージへの移行の検討はキーであり、急務と言えるでしょう。
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