学校教育の現場を大きく変える教育DXを推進するために、学校教育指導の方針や校務の在り方を見直すよう検討している教育委員会も多いのではないでしょうか。この記事では、文部科学省が推進するGIGAスクール構想の概要、学校現場の課題、教育DXを進めるメリットについて解説します。また、参考になる自治体の取り組み事例もご紹介します。
文部科学省が目指す教育DX:GIGAスクール構想
PISA2018の調査で、日本はOECD加盟国で学校授業でのデジタル機器使用時間が最も短く、最下位だったことは記憶に新しく、日本はデジタル教育の分野で大きく遅れを取っているのが現状です。この状況を受けて、文部科学省ではGIGAスクール構想を掲げてICT教育の環境整備推進を呼びかけています。この取り組みは、Society 5.0につながる基盤づくりと考えられ、社会の課題解決やイノベーションの推進も目指すものです。
・文部科学省 | OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント
GIGAスクール構想の概要
文部科学省が2019年に発表したGIGAスクール構想とは「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育環境を実現する」という方針の下、実施されている取り組みです。GIGAスクール構想を実現に導くために「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する」としており、環境整備に必要な経費を盛り込んだ予算案を2019年に閣議決定しています。
経済産業省では、GIGAスクール構想に則って「未来の教室」実証事業もスタートさせました。GIGAスクール構想では、利便性・効率性の向上を目指してクラウドの活用も推奨しています。国を挙げた取り組みにより、2021年7月末時点の実施状況を示したデータでは、公立の小学校等で96.2%、中学校等では96.5%が、全学年または一部の学年で端末の利用を開始しているという結果になっています。
・文部科学省 | GIGA スクール構想の実現に向けた端末の利活用等に関する状況(令和3年7月末時点)(確定値)(p.2~)
GIGAスクール構想が推進される背景
少子高齢化の問題を抱える日本が今後も経済力を発展させていくには、デジタル技術を積極的に活用していく必要があります。そこで政府が提唱したものが「仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題を両立する、人間中心の社会」であるSociety 5.0です。このように、高度なデジタル技術に対応できる人材の育成が日本全体で急務となり、現在のGIGAスクール構想の推進に結びつくのです。
学校現場の課題とは?
現在すでに教員が不足している学校現場は多く、会計年度任用職員でも確保が難しいという声を耳にするようになりました。また、学校現場に求められる対応も従来よりも多様化しており、教職員にかかる負担の軽減が大きな課題となっています。教育DXの推進は、学校におけるあらゆる課題解決に貢献することが期待されています。
教職員の多忙化
総授業時間や部活動指導の時間増加に伴って、教職員は以前にも増して多忙になっています。また、教育内容の多様化により、授業以外の課外活動や授業計画準備に費やす時間が増え、重要な子どもとの関わりに専念する時間は減少してきているようです。2021年に日本教職員組合が行った「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」によると、教員の週あたり平均労働時間は約63時間で、平均時間外労働時間が24時間を超えることが分かりました。
・日本教職員組合 | 2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査
多様な生徒に対する個別対応の不足
最近では、教育支援を必要とする子どもの数も増えています。2021年に文部科学省が公表した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」によると、2021年では過去最高の4万7,627人でした。しかし実際には、人員不足が原因で日本語指導を行うための整備が追いついていないようです。また、いじめや不登校の問題、障害を持つ児童生徒への適切な対応など、学校現場に対するニーズは多様化しただけではなく、複雑化もしています。これからのSociety 5.0では、一人ひとりの可能性を伸ばす教育が必要とされますが、現状では十分に実施できない状況と言えます。
・文部科学省 |日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果の概要(速報)(p.2、p.19)
教育DXのメリット
教育DXは、単に学校現場へのICT導入のみを目的としたものではありません。より効率的かつ柔軟に働けるようにし教職員の定型業務にかかる時間を削減、および、従来の集団に焦点を当てた教育からの脱却も目的としています。教育DXにより、これまでの平均主義や減点主義から抜け出せれば、個人に焦点を当てた教育が実現します。教育DXは、教職員の業務負荷軽減と生徒一人ひとりの特色を最大化する教育を目指す取り組みなのです。
ICTの活用で教職員の業務を効率化
社会全体で取り組むべき教職員の働き方改革への実現に向けて、文部科学省でもCBTなどのICTの活用を推進しています。CBT(Computer Based Testing)とは、問題の提示から配布、解答の入力や採点までのすべてをコンピューター上で実施する試験方式です。CBTを活用すれば、採点作業や集計作業にかかる時間を削減できるため、教員は重要な教育業務へ集中できる時間が増えます。
学習履歴(ログ)を利用し指導内容を個別最適化
スタディ・ログと呼ばれる学習履歴を活用した教育では、子どもの学習状況を一元的に把握したうえで指導を進めていきます。収集したスタディ・ログをAIで分析すれば、個別に最適化された学習方法を生徒に提供することも可能です。最適な教材の提供や重点的に学習すべきことを提示できるようになれば、学習効率の向上が望めるでしょう。スタディ・ログの活用は、教員が個別指導にあてる時間を増やすことなく質の高い教育の実施を可能にします。また文部科学省では、スタディ・ログの他に生活や健康情報であるライフ・ログや指導記録であるアシスト・ログの取得、および活用も含めた個別最適化の実現も検討が進められています。
デジタル技術を利用し社会を牽引する人材を育成
文部科学省は、初等・中等教育だけでなく、高等教育におけるデジタル人材の育成にも注力する方針を明らかにしました。2025年を目途に、全ての大学および高専生が基本的なデータサイエンスやAI教育を修得できるよう、認定制度の検討などを行うといった内容を公表しています。
この取り組みにより、高度なデジタル技術を活用して社会に貢献する人材を育成することで、日本におけるデジタル人材を確保できると大きな期待を集めているのです。
自治体や学校での文教DX取り組み事例紹介
埼玉県では、「ICT活用レシピ」として具体的な実践例を紹介しており、他の自治体においても実践できるよう、その仕組みを公表しています。小学校や中学校、高等学校と教育段階ごとにICT活用レシピを用意しており、さらに特別支援学級や特別支援学校での実践例まで準備していることから、学校現場におけるICT活用の見本となる事例です。
熊本市においては、オンライン授業のサポートとして、情報端末の使用に関するガイドブックの提供や、動画によるツールの使用方法解説などをウェブサイトで公開しています。特に動画での解説は、使用方法についての疑問が解消されやすい内容となっており、オンライン授業における混乱の軽減に有用です。オンライン授業に対するアンケート調査も行っており、全国の自治体が参考にできる内容となっています。
また、京都教育大学附属桃山小学校では、教職員の業務効率化にクラウドやBoxを採用しコロナ禍で急に在宅授業に切り替える必要が出た際にもスピーディに対応しています。
このように、各自治体や学校において、教育DXの実現に向けた取り組みは積極的に行われています。
まとめ
日本社会が抱える問題の解決に不可欠なGIGAスクール構想は、教職員の業務効率化とデジタル人材の育成を目的としたものです。教育DXは、学校現場で問題視されている教職員の長時間勤務や、個別対応の不足といった課題を解消に導きます。
教育DXを推進すると、文書の保管や共有がオンライン上で行えるため、オンラインにより自宅と学校といったリモート会議や教育コンテンツの共同編集といったことが選択的にできるようになり、働き方も多様化し、生徒や父兄とのコミュニケーションも変わります。また、一歩先を行く企業のDX事例も参考にできるのは大きなメリットです。これを機会に是非文教DX推進を推し進めてみてはいかがでしょうか。
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