インターネットの台頭や、ニューノーマルの消費者行動の変化などで流通小売業界も大きく変化しています。既存のビジネスモデルの見直しが求められており、改めてDXについて知る重要性が高まっています。本記事では、読者にも身近な流通小売業の現状や課題解決へのDXへの取り組みについて紹介します。ぜひ、ご自身の業界に置き換えて読んでいただき、ヒントとしてください。
流通小売業の現状
流通・小売業の状況は、ひと昔前とは大きく異なり「モノからコトへ」と言われるように、モノが売れない時代に変化しています。小売業がこれからの時代でも成功し続けるためには、従来通りのやり方を維持するのではなく、新たな手法・戦略、アイデアを用いて競争を勝ち抜いていかなくてはなりません。
そのためにはまず現状の把握をし、具体的な戦略等を見出していくことが必要です。そこで、最初に小売りや消費市場の現状や変化、その背景について解説します。
消費者ニーズの変化
第一に挙げられるのは、消費者ニーズが変化したということです。従来はモノを「所有」するために商品を購入するのが当たり前でしたが、現代においては、所有は必ずしも求められておらず、「利用」に注目が集まっています。これは現代社会における大きな特徴といえるでしょう。
この傾向にはITの発展も寄与しており、サブスクリプション型サービスの提供が可能になったこと、その他様々な利用形態が技術的に可能になったことも関係しています。モノを所有することが目的ではなく、それを使って経験することや感じることが目的と考える消費者が増えているのです。
また、ネットショッピングの市場が伸びてきたことも大いに関係しています。店舗に行かなくても商品が購入できますし、利便性も高いです。より低価格で購入できるケースも多く、実店舗の客離れはより深刻になっています。
さらには、モノを購入し所有する人が減ったことにはデフレ経済や老後への不安なども関係しているといえます。
店舗のショールーム化
ネットショッピングを利用する人は世界中で増えており、ECサイトも成長を続けています。国内に限って見てもその傾向は見られ、多くの小売業者が実店舗に加えECサイトも構えるようになっています。
もはやインターネットやWeb、オンライン広告を使った集客は欠かせないともいえ、消費の中心もインターネットに移りつつあります。そこで、リアル店舗の存在理由が大きく変化してきています。それが、リアル店舗のショールーム化です。
これは、実店舗を利用するものの、その場では商品を確認するのみで、実際に購入するのはECサイトからという状況を表します。
しかも、購入するのがその店舗が運営するECサイトとは限りません。消費者が同じ商品をインターネットで探せば、より低価格で販売しているECサイトが見つかることも珍しくないため、ひとつの店舗に依存する必要がないのです。
これまで、実際の商品を確認できないことがネットショッピング最大の弱みでしたが、消費者としては実店舗で商品を確認することによってこの弱みをなくすことができ、強みのみを活かすことができるため、リアル店舗をショールームのように利用し、消費者体験の場としているのです。店舗変革もECとの合わせ技で、DXの一端と言えるでしょう。
モノが売れない時代
モノを売るのが難しくなっている昨今ですが、それには消費者ニーズが変化したことに加え、商品の差別化が難しくなったことも原因として挙げられます。
以前は価格や、クオリティによって他社・他店と差別化を行っていましたが、今やインターネットを利用すれば世界中から商品を探すことができます。同種でより価格が低く、よりクオリティの高いものも簡単に見つけられます。そのため、消費者は他商品との比較に、クオリティの高さだけではなくオリジナリティも重視するようになっているのです。
ありふれた商品ではなかなか売れなくなっており、素材を変えたり、付加価値をつけたり、他のモノでは代替できない特別感を持たせたりすることが求められています。
流通小売業の課題解決のためのDX
以上の現状を踏まえ、これから流通・小売業では、課題解決を図って業績を上げていくためにDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。DXに関しては流通や小売業に限らず、あらゆる業界でその重要性が説かれています。DXのイメージがわくように自分たちの身近な流通や小売業におけるDXの取り組みをご紹介していきます。
オンラインの強化
まずはオンラインの強化を図る必要があります。ただし、単にECサイトを開設するだけでは不十分です。これでは到底DXを実現したとはいえません。重要なのはその運用方法です。ネットショッピングの動向をAIで分析してパーソナライズやレコメンデーションに活かしたり、収集した顧客データをその他関連データとも紐づけながら分析をして新規顧客獲得やリピーター獲得を目指したりなど、デジタル化をしたうえでそのデータの分析を行うことが大切なのです。
特に販売に関していえば、OMO(Online Merges with Offline)が注目を浴びています。これはオンラインとオフラインを融合するマーケティング概念・販売方法のことで、実店舗での活動とECサイトでの活動を別個独立させて考えるのではなく、相互作用を及ぼせる形で運用することを目指します。
また、メーカーと小売り、メーカーとバイヤーといった関係者がどうオンラインでコミュニケーションやコラボレーションをするかも重要なポイントです。例えばゴールドウインの取り組みのように、DX以前の形では、新製品展示会を物理的に行い、そこにメーカーも小売りも、商品担当者もバイヤーも来ていましたが、それをオンライン展示会で行うことで、効率化や地域差を無くすことにつながっています。商品資料も紙ではなく、電子カタログといったコンテンツを用意することで、いつでもどこでも見られるという新しい形にDXできたのです。
無人化対応
DX推進の具体的手法のひとつとして、無人化対応も検討してみましょう。人手不足で悩んでいるお店であればなおさらです。
実際、少子高齢化が進むことで、多くの業界で人材が足りなくなっていくことが予想されています。DXを本格的に進めていけば、実店舗を無人で対応するということも不可能ではありません。キャッシュレス決済、ロボットの活用、顧客ID、その他IoTを広く活用することで実現に近づきます。いきなり無人化させることは困難であっても、できる範囲でもITやデジタル施策を活用し省人化から取り組むところが増えています。これは人件費の削減にも繋がっていますが、人と人の接触機会を減らすため、今後コロナ禍以外のパンデミックが起きた際にも対応ができるようになります。24時間営業の無人餃子販売所なども、小売DX、流通DXの成果と言えるのではないでしょうか。
サービスのサブスク化
モノの所有が減り、利用や体験といったコトがより重視されるようになっているため、従来のように大量生産、大量販売を単純に繰り返していては限界がやってきます。そこで近年伸びているサブスクリプション化にも取り組みましょう。一般に「サブスク」と呼ばれることが多く、一定期間内の利用に対し、料金を支払う形態をいいます。
代表的なのは動画配信サービスです。月々いくらの料金を支払うことで動画が見放題というサービスが多く展開されています。
必ずしも無制限に利用し放題とする必要はありませんが、改革のひとつとしてサブスク化も取り入れてみると良いでしょう。
最前線の流通小売業のDXで実現すること
モノやサービスを作って売るという基本的なビジネスにおいて、流通・小売業は最前線にいます。その流通小売業でDXが進めば、結果としてその後ろにいる製造業や金融といった他業界でも業務効率の向上、コストカット、生産性向上、各プロセスの最適化などが実現されます。
流通小売業内部でももちろん、様々な雇用形態の従業員が存在していることが多く、シフトも固定でないなど、勤怠管理といったことのデジタルシフトは重要です。その他、重要な在庫管理もAIを駆使して在庫管理の自動化および省人化を図れば、できるだけ少ない労力で大きな効果が得られるようになります。データ分析を活用すれば、適切なタイミングで自動発注できるようになります。
また、その背後にいる製造業とも連携すれば、過剰生産や余剰在庫の保管にかかるコストも削減できます。キャッシュレス決済が進めば、金融機関とも現金をやりとりする必要がなくなり、レジ締めといったことも減っていくでしょう。
まとめ
消費者との接点でもある流通小売業界では、市場の変化に合わせ様々なDXが進んでいます。常にニーズは変化するため、今後も変革をし続けていくことは間違いありません。DXの推進をしなければ新たな時代に対応できず、企業にとってリスクになります。他の業界も言葉や業種業態は異なっても、そのビジネス環境は同様にDXが必須なのです。自分たちの身近にある流通小売業の例を参考に、自社でどのようにDXを進められるかを考えてみてはいかがでしょうか。
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