近年、国内のさまざまな産業において、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進が喫緊の経営経営となっています。しかし、DXの重要性を理解しながらも、何から手をつけるべきかわからないという企業も少なくありません。そこで本記事では、あらためてDXの概要について解説するとともに、具体的な進め方や押さえておきたいポイントをご紹介します。
そもそもDXとは
「DX」とは「Digital Transformation」の略称で、デジタル技術の活用によって、市場における競争優位性の確立を目指す取り組みのことです。Digital Transformationを「DT」ではなく「DX」と略すのは、英語圏で「交差する」「横切る」を意味する「Trans」や「Cross」を「X」の一文字で表すことに由来します。
そして、「Transformation」は「変形」「変容」「変質」といった意味合いをもっており、物事を根本から変容させるというニュアンスを含む言葉です。DXという概念に明確な定義はありませんが、単なる業務のデジタル化やIT化ではなく、ITとビジネスプロセスの融合によって経営体制やビジネスモデルそのものの変革や、新たなイノベーションをもたらすことが本質的な目的といえます。
DXが必要とされる背景
DXという概念が注目を集めている背景にあるのは、少子高齢化による生産年齢人口の減少やレガシーITのブラックボックス化です。日本は人口減少と高齢化が進んでおり、さまざまな産業で人材不足が深刻化しています。さらに、多くの企業が肥大化・老朽化したITシステムを抱えており、事業戦略上の足かせとなっている現状があります。
企業の競争力が停滞すれば日本経済の衰退を招き、ひいては国力や国際競争力の低下につながりかねません。このような状況を打破するためには、産業や経済の活性化が必須であり、企業の経営体制に改革をもたらすDXが必要とされているのです。経済産業省は2018年に公表した「DXレポート」のなかで、このままDXが実現できなければ、2025年には最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。
DXを進める前に理解しておくこと
DXの本質は、IT化・デジタル化といった部分最適ではありません。デジタル技術の活用によるイノベーションの創出や、国際競争力の向上など、企業としての新しい市場や環境に合った全体最適を目指すことがDXの本質です。IT化はDXを実現する手段のひとつであり、経営体制に改革をもたらすためには経営層のコミットメントやリーダーシップが求められます。
また、どれだけデジタル技術が進歩を遂げても、ビジネスの基盤はあくまで人間関係であり、業績向上の要となるのは人的資源である従業員です。そのため、人事評価制度や研修制度などを整備し、人的資源の確保・育成に取り組むことも、DXを実現するうえでの重要な施策といえます。いきなり大規模なIT投資を実行するのではなく、自社の経営状況を客観的な視点から俯瞰し、DX実現に向けて小さな規模から段階的に取り組むことが大切です。
DXの進め方とは?成功させるために押さえたいプロセスのポイント
冒頭で述べたように、DXとは「デジタル技術を駆使して先進的な経営体制を構築し、市場における競争優位性の確立を目指す」という曖昧かつ抽象的な概念です。具体的な定義はなく、どのような施策が必要かは企業によって大きく異なります。そのため、DX実現を目指すうえで絶対的な正解は存在しませんが、以下の5つのポイントを基本として押さえることで、組織力の総合的な強化につながり、DXを実現する一助となるでしょう。
- 戦略・ビジョンの明確化
- 推進体制の構築
- 課題の特定と見直しの検討
- デジタル化の実施
- 評価・改善
戦略・ビジョンの明確化
DXを推進していくうえで重要となるのが、企業理念や事業戦略に基づくビジョンの明確化です。「何のためにDX実現を目指すのか」というビジョンを明確化することで、必要な取り組みや施策が可視化されます。DXの実現は、企業が発展していくための手段に過ぎず、目的ではありません。「DX実現に向けて何をすべきか」を現場に求めるのではなく、経営層が企業理念や事業戦略に基づくビジョンを提示し、組織に属するすべての従業員で共有する必要があります。
推進体制の構築
DX実現におけるビジョンが明確化されたなら、次なるステップは推進体制の構築です。DXの実現に向けて必要な制度や仕組みを整備し、中長期的な視点に基づく継続的な体制の構築が求められます。DXの実現とは、すなわち経営体制の抜本的な改革を意味するため、その道程は決して平坦ではありません。そのため、DXの推進を目指す部門やチームを設置して、サポート体制を整備し、全社横断的な業務連携のもとで取り組む必要があるでしょう。
課題の特定と見直しの検討
DXというと大規模なIT投資をイメージしがちですが、必ずしもシステム環境の刷新が必要とは限りません。たとえば、プライベートクラウドへの移行やETLツールを用いたデータ連携によって、既存システムを活用したITインフラを構築できます。どのようなシステム環境を構築すべきか知るには、まず既存システムの利用状況を分析し、課題を明確化しなくてはなりません。ITシステムの老朽化や複雑化、部門間や社内外の業務関係者との情報共有(ファイルやコンテンツ)やデータ管理(ビッグデータ)といった現状の課題を把握することで、必要な施策が具体化されます。課題を把握したら、どの領域を改善すべきかを検討し、取り組みの優先度を設定しましょう。
デジタル化の実施
各部門の業務プロセスを分析し、デジタル化が可能な領域はITシステムを導入して効率化・自動化に取り組みましょう。たとえば、ワークフローシステムを導入することで、稟議書の作成・申請・承認といった業務の効率化やそれに伴うテレワークが可能です。ほかにも「RPA(Robotic Process Automation)」を活用して、定型業務を自動化するもの有効な施策といえます。そして、部分的なデジタル化で終わるのではなく、全社横断的なデータ活用や新規事業への転換なども視野に入れることが重要です。
評価・改善
先述したように、DXは「デジタル技術の活用による経営改革」という曖昧かつ抽象的な概念であり、具体的な定義や絶対的な正解はありません。そのため、DXに明確な終着点はなく、各企業で目的やゴールを明確化した上で、PDCAサイクルを回し続ける継続的な改善が必要です。たとえ十分な成果を生んだ施策だとしても、実施方法に改善や見直しの余地があると考えられます。「計画」→「実行」→「評価」→「改善」のPDCAサイクルを回し続けることで、組織力の強化に寄与し、結果として組織全体における業務プロセスの改善や生産性の向上、また企業力や競争力の向上につながるでしょう。
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まとめ
DXとは単なる業務プロセスのIT化ではなく、デジタル技術の活用によって経営体制やビジネスモデルそのものに変革をもたらし、イノベーションを起こし、市場における競争優位性を確立するための取り組みです。変化の加速する現代の市場において、企業が新たな市場価値を創出するためには、DXの実現が欠かせません。ぜひ、本記事を参考にしてDX推進に取り組んでみてください。
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