ペスト(14世紀頃)、スペイン風邪(1918年)、SARS(2002年)、そしてCOVID-19(2020年)。私たち人類はこれまでさまざまなウイルスや細菌などの感染症により、多くの危機に瀕してきました。100年前に発生したスペイン風邪の被害は甚大であり、全世界での推計感染者は5億人、死者は1,700万~5,000万人とされています。当時の世界人口が18億人ということを考えると3%近くの人口を失ったわけです。
それと比べてしまうとCOVID-19の被害は少ないと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、問題は100年以上昔と比べて極めて発達した医療があるにもかかわらず、終息させることに苦しんでいることです。つまり被害状況だけを見れば過去の感染症よりも少ないものの、発達した現代医学を鑑みれば過去最悪のウイルスと言っても過言ではないのかも知れません。
誰もが予期せぬ事態となったCOVID-19感染拡大によって、ビジネスも大きく変化しています。私たちは今、ニューノーマルな世界に向けて大きく舵を切る必要に迫られています。「ニューノーマル」とは何か?メディアでも度々取り上げられるこの言葉を、ここで解説したいと思います。
ニューノーマルとは時代の節目に訪れる転換期
ニューノーマルという言葉が使われ始めたのはごく最近のことです。しかし、近年でも人類がいわゆるニューノーマルと呼んでも良い時代の転換期を迎えたことは、何度とありました。
例えば私たちが生きてきた中での直近のニューノーマルといえば、1990年代における「インターネット社会の到来」ではないでしょうか。世界で最初のウェブサイトは1991年8月にCERN(欧州原子核研究機構)職員のティム・バーナーズ・リー氏によって公開されました。当時のウェブサイトを再現したページ(http://info.cern.ch/hypertext/WWW/TheProject.html)が現在でも閲覧可能になっています。
それから企業は電子メールを使い始め、世の中ではYahoo!が登場し、Googleが検索エンジンサービスを展開し、国内ではNTTドコモがiモードサービスをスタートしました。そしてADSLの普及により、一般家庭に用意された電話回線を使用した高速ブロードバンドが可能になったことでインターネットへ接続する人・端末が劇的に増加します。インターネットは成長を続け、その後どう拡大したかの説明はもはや不要でしょう。
その次に起きたニューノーマルといえることは、2008年~2009年でした。今でも記憶に新しいリーマンショック事件です。これをきっかけに国内外でコーポレートガバナンス(内部統制)に対するニーズが急増し、法令整備も進められます。さらに、ビジネス面ではスピードと俊敏性が求められる時代になったとして、古いシステムを刷新する動きも活発になりました。
そして第3の大きなニューノーマルこそが、私たちが今日立たされている状況です。
このようにニューノーマルとは、時代の節目に訪れる転換期であり、今までとは違う基準を持った新しい世界観と言えます。
ニューノーマル時代の新たな働き方とは
直近のニューノーマルを引き起こすきっかけとなったCOVID-19は、感染症の特性から「働き方」に大きな影響を与えています。
では、ニューノーマル時代において我々の働き方はどう変化するのでしょうか?
リモートワークの常態化
COVID-19感染拡大を受けて政府が発令した緊急事態宣言により、かつてないほど多くの企業がリモートワークへと乗り出しました。業種や業態、職種により差はありますが、大きな方向性としてはリモートワークが当たり前になるでしょう。今では多くの企業がリモートワークの効果を実感しており、ビジネスパーソンの半分以上はリモートワーク継続を希望しているといいます。そして、オフィスのあり方もそれに応じて変える必要が出ています。物理オフィスにオンプレミスの社内ITが無くなるわけではありませんが、リモートワークやテレワークを行うために、クラウド、特にSaaSを活用し、どこからでも業務が行えるデジタルワークプレイスの準備が必要となります。
遠隔でのコラボレーションとコミュニケーションをとりながら進める仕事は、生産性を高めたり、ワークライフバランスを整えたりと様々な効果をもたらし、企業にとって無視できない存在です。このためニューノーマル時代においてもリモートワークは常態化すると考えられます。また、リモートワークを実施しない企業は、人材獲得を含め企業競争力を失う恐れもあると言われています。
顧客・取引先との関わり方
リモートワークへ取り組んでいるのは自社だけでなく、顧客や取引先も同じです。特に非製造系企業ではリモートワークの実施率が高く、IT業界、コンサルティング業界などはほとんどの企業が遠隔で仕事を進められるようになっています。
その中でクライアントや取引先との関わり方も変化し、今後はウェブ会議やビジネスチャットを中心としてコミュニケーション、そしてファイルのやりとりやコラボレーションはクラウドストレージの機能を利用する形へと移行していくでしょう。COVID-19感染拡大前は、遠隔コミュニケーションによる不安から企業同士の遠隔ビジネスが進まない状況でしたが、不本意ながらも実際にリモートワークを実践してみて「問題ない」と感じた企業も多く、合わせて企業の制度や文化も大きく変わっていっています。
セールス・マーケティングの在り方
現在のCOVID-19感染状況が収束した後の世界、いわゆるアフターコロナにおいても、極力非接触型でビジネスが進められる可能性は大いにあります。となると、訪問型のセールスはその規模を徐々に縮小していき、相対的に遠隔型のセールスへと変化していきます。つまりはウェブ会議等を使用した商談や、ウェビナーによるリード(見込み客)獲得などです。
また、マーケティングではデジタル中心の施策がさらに加速するでしょう。政府の自粛要請によって多くの人が在宅勤務を余儀なくされ、インターネットへの接続率が爆発的に増加しました。企業の決裁プロセスは大半がインターネット上の情報収集で行われると言いますから、ニューノーマル時代はその傾向がさらに加速し、デジタルマーケティングやオンラインでのイベント・展示会といった手法の重要性が増します。それらのマーケティング活動を支えるコンテンツの重要度が上がり、その後いかにそういったコンテンツをセキュリティを保ちながらスピーディにかつ魅力的に見せるかといった点が差別化要素となるでしょう。
消費者への商品・サービス提供
消費者に対する商品・サービス提供の多くがEコマースなどを利用したオンライン化が必須となっています。また、飲食店などでは、テイクアウトや今まで以上の衛生面への配慮が欠かせなくなりつつあります。
ただし、小売業などにおいて完全にオンライン化へ移行されるというものでもありません。ECサイトを通じたショッピングでは満たすことのできない物欲も存在します。それを表すかのように、外出自粛要請や他都道府県への移動自粛要請が解かれた瞬間、大量の人々がショッピングセンターや百貨店、郊外アウトレットに出向き多くの人出を見せています。
このため企業の成長戦略を描く上で、新しい店舗の在り方やマーケティング・ビジネスモデルを模索する必要があります。
BCPの重要性を再認識
BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)への意識も急激に上昇しています。東日本大震災を機にBCP対策を実践する企業は増えましたが、その多くはシステムを安定運用させるための対策が主流でした。例えば、自社で管理していたアプリケーションをSaaSやクラウド活用への切り替え、自社のデータセンターが地震被害で破壊された場合に、他のデータセンターへ切り替えるためにHA構成をとるなどです。そしてCOVID-19感染拡大においては、「場所にとらわれない働き方」を強化すべきだという大きなBCP対策が求められるようになりました。
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独自にニューノーマルを定義し、新しいビジネスの展開を
「ニューノーマル」と聞くと、COVID-19感染拡大によって漠然とした不安を抱える方も多いでしょう。しかし、こうしたビジネス的変革はいつの時代もあったものであり、コロナ禍以前の働き方改革もこういったものの1つと言って良いはずです。そして、これらは誰もが直面する課題と言えます。私たちはこういった「環境の変化」を英知を結集しながら乗り越えていかなくてはならないのです。この変化は、各企業が独自にニューノーマルを定義し、解決策を作り乗り越えていくことで、新しいビジネスの展開を始めるチャンスにすることができるのです。
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