社会の至るところでデジタル化が進む中、国税や経理に関する資料の電子データでの保存を認める「電子帳簿保存法(電帳法)」も、2022年から新たな形で施行されることになりました。本記事では、電帳法改正の目的やポイントなどを紹介するとともに、その変化に対応するための対策法を解説していきます。ただし、要件は、随時緩和等アップデートされるため、国税庁のページも適宜みることをおすすめします。
電子帳簿保存法とは?
「電子帳簿保存法」とは、従来の国税法では紙媒体による保存が必須であった経理・会計関係の帳簿類について、一定要件を満たすことで電磁記録(電子データ)での保存を認める法律です。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいますが、「電帳法」とも略されます。電帳法において想定されている電子的保存の方法としては、以下の3つが挙げられます。
- 電子データ保存
会計ソフトなどの電子的手段で作成した帳簿類を、そのまま電子的に保存する方法 - スキャナ保存
紙文書をスキャナ・デジカメ・スマートフォンなどで画像データ化(電子化)して保存する方法 - 電子取引情報保存
取引先などとの間で電子的に授受した請求書等の取引記録を、そのまま電子的に保存する方法
改正の背景と目的
電帳法の創設は1998年にまでさかのぼります。1998年といえば、Microsoftが「Windows 98」を発表した年でもありますが、日本政府はそうしたIT技術の発展に対応し、国税関係の書類を作成・保存する際もIT技術を活用することで、納税者の負担軽減や記帳水準の向上を図るべく同法を創設しました。
とはいえ、そうした当初の目的とは裏腹に、「電帳法の実際の運用においては、データの真正性を確保するべき」という観点から複雑な要件が設けられていたため、多くの事業者にとっては利用しづらいものでした。それゆえ同法はこれまでも何度か改正され、段階的に要件の緩和が進められてきています。
今回、2022年から適用される税制改正では、これまでに比して大幅に電帳法の利用要件が緩和されました。それは、日本で思うように進まないDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる狙いとともに、新型コロナウイルスの影響でテレワークが一挙に社会に普及し、これまで紙媒体で処理していた業務のデジタル化とそれに伴う働き方改革が喫緊の課題となったことも背景にあります。
改正のポイント
では、今回の改正で電帳法は、具体的に何が変わったのでしょうか。国税庁の以下の参考資料に基づいて、今回の改正によって変更される主なポイントを解説していきます。
税務署長の事前承認が不要に
従来、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存する際は、「管轄の税務署長へ3ヶ月前に申請し、承認を受けること」が義務付けられていました。その手続きに際しては、電子保存の運用に関する詳細な計画を記載した書類等を提出しなくてはならず、煩雑な手間が必要でした。
しかし、今回の改正により、2022年からこの事前手続きが廃止されます。これによって、帳簿類の電子保存を開始するためのハードルは大きく下がりました。
タイムスタンプ要件が緩和
今回の改正によって、スキャナ保存も利用しやすくなります。従来、請求書等の紙資料をスキャンして電子保存する場合には、タイムスタンプの3営業日以内の付与が必須とされていました。しかし、企業にとってこの期間指定は非常に短いものであり、スキャン保存の導入を躊躇させる原因にもなっていたのです。
今回の改正では、タイムスタンプの付与期限がおよそ2ヶ月まで延長され、しかも電子データの修正ログが残る経費精算システムなどを活用する場合は、タイムスタンプの付与自体が不要になります。
また従来は、スキャンする際に受領者などの書類原本への自筆署名が求められていましたが、この手間も不要となりました。これにより、わざわざ書類に署名するためだけに出社する必要がなくなり、経理担当者の負担軽減やテレワークの促進などが可能になります。
検索項目が「日付」「取引金額」「取引先」のみに
従来、書類を電子データで保存する場合は、取引年月日をはじめ取引金額や勘定科目など、さまざまな検索条件でデータにアクセスできるようにしなくてはいけませんでした。これは、例えば税務署による調査が入った際など、必要なときに必要なデータを素早く提示できるようにするための要件です。そのため当然、ここで要求されている検索性の水準を確保するためには、データ登録や管理業務に関して煩雑な手間が必要でした。
しかし今回の改正により、必要な検索項目は「日付」「取引金額」「取引先」のみとなり、大幅に作業を簡素化できるようになりました。ただし、検索要件がなくなったわけではないことは覚えておく必要があります。
不正への罰則は強化
上記のように、今回の改正では電子保存の要件が大きく緩和されました。従来の煩雑な要件は帳簿業務に関するデジタル化を妨げる大きな原因になっていましたが、同時にデータの真正性を確保し、帳簿類の改ざんなどの不正を防ぐために重要な措置でもありました。そのため、今回の改正では、これらの要件を緩和することと引き換えに、不正への罰則が強化されています。
具体的には、電子データの改ざんや隠ぺいなどによる不正申告が発覚した場合の重加算税が、通常の重加算税も額に10%上乗せされることになったのです。それゆえ各企業には、これまで以上に厳格なデータや電子ファイル(コンテンツ)の管理が求められます。
改正電帳法で求められる対応とは
今回の電帳法改正に当たって、企業はどのような対応をしたらよいのでしょうか。ここで真っ先に挙げられるのは、今回の改正に対応した経理・会計業務システムを導入することです。
先述したように、2022年からは電子データの修正ログが残るシステムを活用する場合、請求書等をスキャン保存する際にタイムスタンプの付与が不要になります。また、電子ファイルの保存に当たっては、クラウドサービスを利用することも許可されています。そこで注目したいのが、クラウド型の経理・会計業務システムとコンテンツクラウドを連携させることです。前述の真正性や検索性の担保のためには、電子ファイルやデジタルコンテンツを管理する仕組みが必要なのです。紙媒体で行っていた文書管理のデジタル版、つまりコンテンツ管理が必要となるということです。
コンテンツクラウドBoxは、日本でも多くの企業がファイルの保存先として活用しています。Boxは外部システムとの連携にも優れており、例えば、改正電帳法に対応したシステムと連携させれば、ファイルに落ちない電子データ(構造化データ)を管理する会計システムとファイル(非構造化データ)に落ち、コンテンツ管理をする両方が揃い、今回の改正電帳法に対応できます。もちろん、Boxとタイムスタンプのソリューションを組み合わせることも可能です。紙媒体での処理からデジタルでの処理に移行できるため、業務の効率化やテレワーク、ハイブリッドワークを推進しやすくなります。
電子取引データの書面保存が2024年に廃止へ
ここまで紹介してきたことからも示唆されるように、日本政府は現在、紙媒体で行ってきた業務のデジタル化(ペーパーレス化)に関する取り組みを強力に推進しています。その一環として、「電子取引データの書面保存が廃止されること」が今回の改正で決まりました。したがって実質的には、Webやメールなどを介した電子取引にて授受した請求書等の保存に際して、紙に出力して保存するのではなく、「電子データのまま保存すること」が義務付けられることになります。
電子取引データの電子保存の義務化は、当初は2022年1月から施行される予定でしたが、2021年12月公表の「令和4年税制改正大綱」にて延期されることが発表されました。延期期間は2年間で、2023年12月31日までです。この猶予期間の間は、従来通り紙での保存が認められますが、2024年からの施行に備えて、各企業は早期に体制の整備・強化に取り組むことが求められます。
まとめ
2022年からは、電子帳簿保存法(電帳法)を利用して税関系・経理関係の書類を電子保存するための要件が大きく緩和されます。主だった改正ポイントとしては、「税務署長への事前申請が不要」「タイムスタンプの付与期限などの緩和」「検索性に関する要件の緩和」などが挙げられます。2024年からは電子取引ファイルの電子保存が義務化されることも決定しているため、事業規模にかかわらず、あらゆる事業主が電子化に対応していかなければなりません。本記事を参考に、電帳法対応にはコンテンツ管理が必要と覚えていただき、改正電帳法に対応した体制づくりを進めてはいかがでしょうか。
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