最近、「BPR」という言葉を耳にする機会が多くなりました。日本で最初にBPRブームが起こったのは1990年前半です。1990年初頭に長期不況の閉塞感にあえぐ米国で概念が生まれ、小手先の修正では立て直しがきかないような状況において、抜本的な業務改革手法として注目されています。
この経緯からバブル崩壊後の日本でも大いに注目され、業務改革を模索する民間企業だけでなく地方自治体や公共機関でもBRPに取り組む組織が増え、一大ブームを引き起こしました。
今になってBPRが再び熱を帯びているのは、バブル崩壊時同様、今が時代の大きな節目にあるからと考えられているためです。クラウドサービスの台頭、AIの発展やIoTの拡大、レガシーシステムの刷新、破壊的イノベーションへの対応、企業は目まぐるしく変化するビジネス環境に対応するために、様々なことが要求されています。その中で、既存の業務プロセスを壊し、再構築するBPRに注目する企業が増えているのです。
ここでは、BPRとは何か?という基本から、意外と知らない業務改善との違いについて解説します。
BPR(業務改革)とは?
BPRはよく業務改革と表現されています。しかし、それだけではBPRの本質を捉えていません。そもそもBPRは「Business Process Re-engineering」の略であり、そのまま日本語に訳すと「業務プロセスの再設計」となります。つまり、業務プロセス全体とプロセスに帰属する業務1つ1つを見渡しながら、生産性を下げたりQCD(Quallity,Cost,Delivery)を低下させている問題と向き合いながら、抜本的な改革を目指す取り組みを意味します。
BPRが浸透するきっかけになったのが、米マサチューセッツ工科大学のマイケル・ハマーと、経営コンサルタントのジェイムズ・チャンピーの共著『リエンジニアリング革命:企業を根本から変える業務革新』にて提唱されたことからです。ちなみに本書では、リエンジニアリングを以下のように定義しています。
“「リエンジニアリングとは、コスト、品質、サービス、スピードのような重要で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にデザインし直すこと”
BPRと業務改善の違い
BPRと業務改善は同じような意味で捉えられがちです。しかし、実際はBPRと業務改善には明確な違いがいあります。その違いを、表にまとめました。
BRP |
業務改善 |
|
---|---|---|
改革の対象は組織全体の業務プロセス、または一部の業務プロセス。いずれにせよ広範囲にわたった改革を目指すことになる。 |
改革・改善の対象 |
改善に対象はごく一部の業務であることが多い。小さい範囲でいかに改善を繰り返すかが重要となる。 |
プロジェクトの最初から終わりまで数えると、1年以上かかるケースも少なくない。比較的大規模なプロジェクト。 |
プロジェクトの規模・期間 |
1つ1つの改善策は大きくなく、1週間から長くても1ヵ月程度で完了するものが多い。 |
業務プロセスを根本的に考え直し、抜本的な改革を実施することで新しいビジネス要件への対応の実施や、高度にQCDを満たすような業務プロセスを構築すること。 |
実施する目的 |
日常に隠れている「ムリ・ムダ・ムラ」を発見して、少しずつ改善を加えていくことで業務効率アップや業務のやりやすさのアップを目指すこと。 |
BPRの実施に情報システムを巻き込むことは必須であり、業務プロセスに加えて、そこに関わる情報システムにも抜本的改革を実施する。 |
情報システムとの関り |
必ずしも情報システムを巻き込む必要はなく、むしろ足元に転がっている細かい問題を解決することが多い。 |
BPR推進の中心となるチームを発足して、企業や組織全体で取り組む。必要に応じてBRPコンサルティングを依頼するケースも多い。 |
プロジェクトの関係者 |
改善チームは部門ごとに分かれることが多く、部門内で業務効率をアップするための取り組みを実施する。 |
BPRが完了すると広範囲にわたって業務改革が実施するため、その影響は組織内だけでなく取引先に及ぶ可能性も高い。 |
影響が及ぶ範囲 |
1つ1つの改善は個人や部門に影響を与えるケースが多いが、無数の改善が組織全体の生産性に影響を与えることもある。 |
このように、BPRと業務改善は似て非なるものです。BPRに取り組むつもりが、ただの業務改善になってしまったという事例も少なくありませんので、その違いを明確にしておくことも大切です。
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BPR実践のポイント
BPRを実践するための具体的な手順を紹介するとなると、かなりの情報量が必要になります。そこで、BPR実践において押さえておきたいポイントに絞って紹介していきます。
1. スモールスタートで徐々に拡大していく
BPRは組織全体に影響を及ぼす業務改革ですが、必ずしも最初から全社的に取り組む必要はありません。むしろ全社一気に取り組むリスクを考慮して、スモールスタートで開始するのがセオリーです。最初は小さい範囲でBPRを実践し、小さな成功を積み重ねながらノウハウを得ていきます。そこからBPRを拡大していきましょう。
2. BPRを適用する業務プロセスは慎重に選ぶ
何事も「最初が肝心」と言うように、BPRでも最初の業務プロセス選びが肝心です。業務プロセスや問題点の優先度や改革難易度を実施した上で、目安として60日~90日程度で改革が可能な業務プロセスを選びましょう。
3. BPRに加えてPDCAサイクルを取り入れる
BPRを一度の改革で終わらせるのではなく、PDCAサイクルを取り入れて継続的に実施することも大切です。業務改革は1日にして成るものではありません。そのため何度もPDCAサイクルを繰り返して最終的な改革を達成するよう計画します。継続は何よりも大切なので、必ず押さえておきたいポイントです。
4. BPRの成功と失敗の要因を必ず分析する
BPRでは成功することもあれば、失敗することもあります。その際に大切なのは「なぜ成功したのか?」「なぜ失敗したのか?」を考えることです。BPRの度に要因分析を行うことで、合理的かつ効率的なBPRを実施していくことができます。
5. 共通認識のもとBPRを推進していく
物事の価値観というのは人によって違います。しかしBPRでは、関係者全員でその価値観を合わせなければうまく行きません。そこで大切なのは共通認識を持つことです。たとえばBPRのために業務フロー図を作成したとしても、部門担当者ごとにバラバラなルールを用いると、認識の相違が生まれてしまいます。
BPRへ取り組むことは、企業が持つ業務プロセスを一度破壊し、再構築することを意味します。そのため、企業にとっては大きな改革を伴う可能性があるため失敗を招かないように上記のポイントをしっかりと押さえながら推進することが大切です。BPRについて詳しく知らなかったという方も、ぜひこの機会に検討してみてください。
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