何年か後に2020年の社会を振り返ったとき、「働き方改革」と「デジタルワークプレイス」は、新しい流れを牽引した両輪として刻まれているはずです。この2つはもともと別々に派生したものですが、重なる部分も多く時代のニーズを形にする理念として定着しつつあります。今回の前編ではデジタルワークプレイスの骨子とその社会的意義、後編はこれを形成する上でのポイントとなるセキュリティにフォーカスを当てます。
「働き方改革」は時代に呼応
“デジタルワークプレイスとは、働き方改革を実践するため、デジタルツールを組み合わせて形成された職場空間”。デジタルワークプレイスを簡潔に表すと、この1行に集約できますが、背景には以下の要素があります。
- 働き方改革の変遷
- 人々のワークスタイルと意識の変容
- デジタルツールの進展と多様化
働き方改革は、2017年3月に政府から計画が発表された当初、少子化が進む社会での労働力不足を見据え、介護や育児などで限定的な働き方を余儀なくされる人たち、高齢者、障害者、外国人などが働きやすい環境を整えることに主眼が置かれていました。
2018年6月に関連法案が成立した以降は、モバイル機器やWeb会議、クラウドストレージなどのデジタルツールを活用して働く場所と時間の制約を減らし、 オフィスワーカーが働きやすい環境を整備することにスポットが当たるようになっていきます。
新たなビジョンは価値の創成
ニューノーマルに対応するために多くの組織がテレワークを導入した昨今では、次の目標も見えてきたと言っていいでしょう。それは質的向上です。“何のためのテレワークか?”“なぜワークスタイルを変えるのか?”といった問いに対し、多くの人の想いは、静かな場所で仕事がしたい、通勤の負担を減らしたい、という理由だけではないはずです。
働く人々が目指したいのは、業務の効率を上げるだけではなく、生まれた時間でアイデアを出し、仲間とコミュニケーションして刺激しあい、イノベーションやより価値の高い仕事をすることです。すなわち、充実した時間を過ごし、自らの価値を研いていくことではないでしょうか。
働き方改革の進展と、働く人たちのワークスタイルと意識の変容。これを支える骨格がデジタルツール、そしてその集大成とも言える職場空間がデジタルワークプレイスなのです。
デジタルワークプレイスの重要性
デジタルワークプレイスの重要性とは、一体どのようなものでしょうか。ここでは、主な重要性を3点ご紹介します。
従業員エクスペリエンスの向上
従業員エクスペリエンスとは、直訳すると「従業員の経験」を意味し、職場や会社内で過ごす中で得られる経験価値を表す言葉です。企業において、顧客満足度の向上は重要課題のひとつですが、その実現には従業員エクスペリエンスの向上が必要不可欠といわれています。従業員エクスペリエンスが向上すれば、従業員は自身の仕事に情熱を持ち、積極的にプロジェクトに取り組むようになります。その結果、顧客満足度の向上や、優秀な従業員の流出防止といった結果もついてくるようになると考えられているのです。デジタルワークプレイスを取り入れ、より働きやすい職場環境を作ることは、従業員エクスペリエンスの向上につながると期待されています。
働き方の多様化
インターネットの普及とクラウド上でデジタルツールの進化によって、時間や場所に縛られない働き方が可能になりました。デジタルワークプレイスを取り入れれば、従業員を「時間」や「場所」という制約から開放でき、本当の意味での働き方改革につながります。働き方改革では、単に「残業時間の削減」や「テレワークの導入」に取り組むことが目的となっているケースも多く見られます。ですが、これはあくまでも目的達成のための手段にすぎません。デジタルワークプレイスを取り入れれば、時間や場所の制約がなくなり、ライフワークバランスの実現や労働生産性の向上、多様な労働力の活用につながります。その結果、現場は自然な形で働き方改革を達成できるようになるでしょう。
生産性の向上
少子高齢化が進み労働人口も減る中、さらなる生産性の向上が求められています。昨今は新興国の台頭も顕著であるため、グローバルで競争していくためには必須の課題ともいえます。そこで、解決の鍵を握るのがデジタルワークプレイスです。これまでアナログで(物理的に)管理・実施してきた業務をデジタル化することで、業務の異なる者同士の情報連携がスピーディになり、作業効率の改善につながります。また、社内SNSやビジネスチャットなどの新たなコミュニケーションツールの導入により、全社的なコミュニケーションの活発化も期待できます。それは従来のような、トップダウン式の日本的な働き方では起きにくかった、有機的なコミュニケーションによる新たなイノベーションの創造にも役立つと考えられています。
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デジタルワークプレイスの要件は「5Any」
働き方改革は、場所や時間のシフトだけではなく、仕事の質を高めるという側面が重視されてきたことは前述した通りです。これを実践するには、いつでもどこでも、同じ環境で作業ができ、情報を共有する基盤が欠かせません。
メンバーからいい提案が出たら、早いタイミングでオンラインミーティングに集まる。経過は記録やファイルとして関係者と共有し、情報の深掘りが必要なところは専門家に依頼。成果はすぐにトップ層に伝え、意思決定を委ねる……。
このようなワークスタイルの実現には、いつでも(Anytime)、どこでも(Anywhere)、誰とでも(Anybody)、どんなデバイスでも(Any Device)、そしてどのアプリケーションでも(Any Application)という、5つのAnyへの対応がカギになります。
デジタルワークプレイスを形成する3つの基盤
「5Any」の実現に必要なツールは、以下の3分野に集約できます。
◇デバイス
PC、スマートフォン、タブレットなど
◇アプリケーション
ビジネスチャット、Web会議、クラウドストレージなど
◇セキュリティ
本人認証、エンドポイント保護、コンテンツセキュリティ
デジタルワークプレイスは、上記のツールを組み合わせて「5Any」を実現した環境ですが、すべてを満たす必要はありません。例えば、従業員だけが対象か社外の関係者も含むかによって、Anybodyへの対応方法は異なります。
「5Any」のどの要素を重視するとしても、前提となるのはセキュリティの確保です。安全面に懸念があっては、ワークプレイスの拡張と仕事の質の向上にはつながりません。そこで、後編はセキュリティ対策に軸足を移し、デジタルワークプレイスの運用を見ていきましょう。
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