「働き方改革」という言葉が叫ばれ始めてから数年が経過し、テレワークやITツール導入など、多方面で働き方改革へ挑戦する企業が取り上げられています。また、2019年4月1日より「時間外労働の上限規制」が施行されたことから、働き方改革への注目度は一層高くなっています。
では、政府並びに働き方改革の中心となって取り組みを推進する安倍内閣総理大臣(以下安倍首相)は、具体的にどのような“ビジョン”を持っているのでしょうか?これは、働き方改革を推進するために安倍首相自らが内閣官房に設置した「働き方改革実現会議」から発表されている『働き方改革実行計画(概要)』を確認することで理解できます。
本稿ではその中でも、特に重要な項目について抜粋しながら紹介していきますので、働き方改革についてもっと理解したいという方はぜひ参考にしてください。
働き方改革実行計画における、3つの労働課題
働き方改革実現会議は2016年9月に設置されて以降、厚生労働大臣や内閣官房長官など政府の重要人物と、10名以上の有識者を集めて計10回の会議が開催され、『働き方改革実行計画』が決定されています。
それによると、現在の日本の労働環境には大きな3つの課題があります。
1. 正規、非正規の不合理な処遇の差
<問 題>
「正当な処遇がされていない」という気持ちを非正規労働者に起こさせ、頑張ろうという意欲を無くしてしまう
<ビジョン>
世紀と非正規の理由なく格差を埋めていき、自分の能力を評価されている納得感を醸成する。納得感は労働者が働くモチベーションを誘引するインセンティブとして重要であり、それによって労働生産性が向上していく。
2. 長時間労働
<問 題>
健康の確保だけではなく、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因になっている。
<ビジョン>
長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結び付く。経営者はどのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間(マンアワー)あたりの労働生産性向上につながる。
3. 単線型の日本のキャリアパス
<問 題>
新卒入社から定年退職まで同じ会社に勤めるというキャリアパスが固定化しており、ライフステージに合った仕事の仕方が選択しにくくなっている。
<ビジョン>
転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立すれば、自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計可能になる。さらに、付加価値の高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にも寄与する。
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働き方改革を実現するために必要な19個の対応策
『働き方改革実行計画』では上記3つの労働課題を起点として、9つの検討テーマと、19個の対応策を策定しています。ここでは、働き方改革を実現する19個の具体的な対応策についてご紹介します。
- 同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
- 非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
- 企業への賃上げの働きかけや取引条件改善・生産性向上支援など賃上げしやすい環境の整備
- 法改正による時間外労働の上限規制の導入
- 勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備
- 健康で働きやすい職場環境の整備
- 雇用型テレワークのガイドライン刷新と導入支援
- 非雇用型テレワークのガイドライン刷新と働き手への支援
- 副業・兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備
- 治療と仕事の両立に向けたトライアングル型支援などの推進
- 子育て・介護と仕事の両立支援策の充実・活用促進
- 障害者等の希望や能力を活かした就労支援の推進
- 外国人材受入れの環境整備
- 女性のリカレント教育など個人の学び直しへの支 援や職業訓練などの充実
- パートタイム女性が就業調整を意識しない環境整 備や正社員女性の復職など多様な女性活躍の推進
- 就職氷河期世代や若者の活躍に向けた支援・環 境整備の推進
- 転職・再就職者の採用機会拡大に向けた指針策定・受入れ企業支援と職業能力・職場情報の見える化
- 給付型奨学金の創設など誰にでもチャンスのある教育環境の整備
- 継続雇用延長・定年延長の支援と高齢者のマッチング支援
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今着目すべき働き方改革関連法案とは?
『働き方改革実行計画』では実に様々な対応策が考えられ、その内いくつかの対応策は2018年6月に可決・成立した「働き方改革関連法案」に盛り込まれ、2019年4月1日より順次施行されていきます。その中でも特に着目すべきなのは「労働時間法制の改正」でしょう。
4月1日からは大企業を対象に「時間外労働の上限規制」が施行され、従来の労働時間制度と大きく変わっている点がいくつかあります。
Point1. 残業時間の「罰則付き」規制
これまで、残業時間に関する規定は実質的に上限が無く、企業は従業員を際限なく働かせることもできました。しかし、それにより過労死・過労自殺が大きな社会問題になりました。働き方改革関連法案では、「月45時間・年360時間」の残業時間を上限として、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも「年720時間以内・複数月平均80時間以内・月100時間未満」を超える残業はできません。違反した場合は、6ヶ月以内の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
Point2. 勤務間インターバル制度の導入
「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。この仕組みを企業の努力義務とすることで、労働者の十分な生活時間や睡眠時間を確保することを目的としています。
Point3. 年5日の年次有給休暇の取得を義務付ける
従来、年次有給休暇(年休)を取得するには労働者が使用者に対して、取得希望時季を申し出なければいけません。しかし、そもそも希望申し出がしにくいという雰囲気が多くの企業で充満しており、日本における年休所得率はわずか51.1%でした。これが法改正後、使用者が労働者の希望をきき、希望を踏まえて時季を指定し、年5日は年休を取得させるよう義務付けられます。労働者が希望時季を申し出る必要がないため、年休取得率が向上するでしょう。
Point4. 月60時間を超える残業の割増賃金率引き上げ
大企業では2010年より適用された「割増賃金の引き上げ」では、月60時間を超える残業の割増賃金率が1.25倍から1.5倍に引き上げられています。中小企業においては適用が見直されていましたが、2023年4月1日より中小企業でも同じように割増賃金率が引き上げられます。
以上のように、働き方改革にはさまざまな対応策や法改正が盛り込まれています。今後も順次法案が施行されていくので、この機会に働き方改革に対する理解を深めていただきたいと思います。
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