本記事は2019年7月開催Box World Tour Tokyo 2019 で行われた「知財 × Box ~知的財産部門でのリアルなクラウド活用法~」のセッションレポートです。このセッションでは、知的財産部門の業務とはどのようなものか、Boxを活用して何のコンテンツを、誰と、どのようにコラボレーションし、業務効率化やコスト削減につなげているかが具体的に紹介されました。
講演者:楽天株式会社 知的財産部 IPソリューション課 特許(Fintech)グループ マネージャー 松田 義郎 氏
積極的なM&Aによりフィンテック事業をはじめ、さまざまなビジネス分野で存在感を高め続けている楽天は、知財管理を堅実に行っていることでも知られる。同社は企業の経営資産の1つである特許など知的財産の管理業務において、国際的な特許業務を支える補完ツールとしてBoxを利用している。知財管理の攻めと守りのいずれにも活用しているそのノウハウを追っていく。
積極的な海外M&Aで成長を続ける楽天はグローバルな知財管理の補完ツールとしてBoxを利用
同社は現在も海外を中心にM&Aを積極的に展開しており、買収した企業のサービスは順次、楽天ブランドに改称している。その都度、各国で商標出願などが発生するが、「それらの作業も含めて、楽天がグローバルで保有する特許などの知財は全て本社の知的財産部で管理しています」と同部 IPソリューション課でFinTech分野の知的財産(知財)を管理する松田義郎氏(特許(Fintech)グループ マネージャー)は話す。
そんな楽天は2015年にBoxを全社導入し、約30名が働く知的財産部でもその活用法を検討することとなった。ただし、特許業務で扱う各種文書には固有のステータス管理が必要なものが多く、知的財産部ではそれに対応した専用ツールをすでに利用していた。そこで、「専用ツールではカバーできない部分をBoxで補う」という補完的な使い方を始めるが、そうした利用法でも「Boxは凄く便利」だと松田氏は話す。
「特に嬉しいのは検索が賢いことや、文書の場所を移動してもURLが変わらないこと、モバイルアプリで使えること、参照履歴や編集履歴が残りロールバックが可能なことです」。(松田氏)
例えば、特許業務ではさまざまな場面で特許庁が発行する「特許公報」を参照する。そこで、オフィスにいるときに特許公報の電子版(PDF)をBoxにコピーし、出先ではモバイルアプリを使うことで、どこにいても特許公報を参照できるようになる。
また、特許業務で扱う文書は機密扱いのものが多いため、参照履歴によって「各文書を誰が閲覧したか」を確認できる機能も重要だという。
知財管理の“守り”と“攻め”のいずれの業務でも活用
楽天における知財管理には、“守り”と“攻め”の側面があると松田氏は話す。
このうち、守りとは「事業継続支援」を意味し、自社のサービスが他社の特許を侵害していないかを検証する業務がこれに当たる。また、攻めとは「事業優位性支援」を指し、自社独自の技術を特許によって保護する業務が相当する。Boxは、このいずれの業務においても活用されている。
松田氏らがBoxで管理しているのは特許文書が主だ。特許文書は、権利関係を検討する際に参照される。それぞれの特許文書には特許請求の範囲が文章で記されており、これがその特許で権利を主張できる範囲となる。権利主張の場面では、この文章を一言一句確認して権利を解釈する。助詞などの文言が1字変わるだけで解釈が変わることもあるため、権利化(特許登録)の際には自社に少しでも有利になるよう文章を練り、逆に特許となった後には文章をどう適切に解釈すべきかを一言一句検討していく。
楽天の特許業務で発生する関係者とのやり取りの中で、Boxなど各種のITツールがどう使われているのかを示したのが次の図だ。
例えば、社内で発明した知財を権利化する「特許申請」の場面では、JiraやRedmineなどの課題管理ツールで申請案件ごとにチケットを発行し、申請に関して知的財産部と社内の発明者との間で行うやり取りを管理する。ただし、チケットを作るまでもない事項やチケット発行の前段階におけるやり取り、チケットを残したくないやり取りに関してはBoxを利用しているという。
「Boxはセキュリティが強固なので機密文書も安心してやり取りできます。楽天ではメールへのファイル添付は基本的に行わず、Boxにファイルを置き、そのURLを相手に知らせてファイルをやり取りしています」。(松田氏)
こうしたやり取りを経て実際に特許出願のプロセスに入ると国内外の特許事務所などとのやり取りに移るが、これには特許管理ツールを用いる。特許管理ツールを使って特許庁に出願を行うと、その返答として出願日や出願人などが記述されたXML形式のデータが返される。このデータを特許管理ツールで出願案件ごとにレコードを作成して管理するわけだ。ただし、特許管理ツールでは出願が確定するまではレコードを作らないため、出願前の特許事務所とのやり取りなどではBoxを使って補完している。
そのほか、特許に関する調査を委託する国内外の調査会社とのやり取り、他社との共同研究などに際しての知財関連のやり取りでもBoxを活用している。
このように、特許業務の補完ツールとしてBoxの活用を進める松田氏らは、Boxのさらなる機能強化にも期待を寄せている。例えば、「クラウド側で動くバッチ的な機能が欲しいですね」と松田氏は話す。
「当社では以前にファイルサーバを利用しており、それを全てBoxに置き換えようと検討しましたが、Boxにはバッチ機能がないため見送りました。ファイルを所定の場所に置くと決められた時間に別の場所に移動したり、マクロを実行して処理を行ったりといった機能があるとよいですね」。(松田氏)
楽天では、特許管理ツールや課題管理ツールといった専用ツールではカバーできない業務をBoxで補完的に活用することで、関連する人々とのコラボレーションや知財管理業務全体の効率化および正確性、セキュリティを上げ、高い効果を得ている。専門分野ならではの利用法は知財業務以外の専門業務にも大きなヒントとなると思われる。ぜひ参考にしていただきたい。
企業概要
楽天株式会社
https://corp.rakuten.co.jp/
1997年設立。インターネット・ショッピングモール「楽天市場」からはじまり、現在はカード、証券、銀行などの金融事業も展開している。その他、70以上のサービスを手掛ける同社は2015年に我が国の知的財産権制度の発展に貢献した個人および企業などを表彰する経済産業省の「知財功労賞」を受賞している。また、スマホアプリ決済サービス「楽天ペイ(アプリ決済)」をはじめ、電子決済・仮想通貨技術にも精力的に取り組んでおり、特許庁が2018年に実施した特許出願技術動向調査における「仮想通貨・電子マネーによる決済システム」分野の出願件数ランキングで、米国、韓国、中国の先進企業とともに上位30位以内に同社がランクインしている。さらに、変わったところでは2015年から申請が可能になった“音商標”として電子マネー「楽天Edy」の決済音を登録している。
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