「ワークスタイル変革(働き方改革)は、大企業が取り組むものでしょう?」。今や、そんな認識を持っている方はさすがに少ないでしょう。
ワークスタイル変革とは既存の働き方を見直し、従業員1人1人に合った柔軟な働き方を提供することで、人材活用を促進したり、労働生産性向上を目指し、企業力を上げるための国を挙げての取り組みです。大企業も中小企業も関係なく必要な変革だとされています。
2019年4月に働き方改革関連法案が施行されてからは、特に重要な経営課題と捉える方が多くなりました。ワークスタイル変革と聞くと「テレワーク(遠隔で仕事をすること)」を想起することが多いようですが、必ずしもテレワークの導入が働き方の変革を起こすわけではありません。大切なのは、「何を目的として、どこを目標にして、何に取り組むか」を明確にしながら、企業ごとに最適なワークスタイル変革を実現することです。
しかし、実情として「取り組んではいるけれど、思うように成果が上がらない…」と悩む企業が後を絶ちません。なぜワークスタイル変革が進まないのでしょうか。本稿ではその理由をご紹介すると共に、実現に向けたポイントをご紹介します。
ワークスタイル変革が進まない主な理由
JMA(日本能率協会)の調査によると、ワークスタイル変革の取り組みに対して「効果を実感していない」と回答したビジネスパーソンはなんと8割を超えたそうです。つまり、ワークスタイル変革に取り組んだ企業の8割程度が、思うような成果を上げられていないことになります。これほど世間で騒がれているにもかかわらず、あまりに成功率が低いのは非常に大きな問題です。
参照:JMA『ビジネスパーソンの“今”をデータで読み解く第 8 回「ビジネスパーソン 1000 人調査」【働き方改革編】』
そこまでワークスタイル変革が進まない理由とは一体何なのでしょうか?
そもそもワークスタイル変革の必要性を理解していない
「あなたの会社にとって、ワークスタイル変革はなぜ必要なのですか?」と問われて、簡潔に答えられる方は少ないでしょう。なぜなら、ワークスタイル変革という言葉が先行するあまり、その本質を知らないまま取り組んでいる企業は意外にも多いからです。「ワークスタイル変革=時間外労働の削減」や「時短」という固定概念を持っている場合も少なくありません。
自社にとってなぜワークスタイル変革が必要なのか?その意味を理解しない限り、取り組みが進むわけはありません。
問題が大きく、最初からあきらめムードが漂っている
働き方に変革をもたらすには、従来のやり方を一度壊してから、新しい環境を構築する作業が必要です。その妨げになっているのがひどく細分化された組織階層であり、組織をあげたワークスタイル変革を目指そうにも、組織が団結するだけでも相当な労力を有します。
しかし本当はもっと小さく始めても問題はないはずです。多くの企業は、ワークスタイル変革に対する問題を自ら大きくし圧倒されてしまい、最初からあきらめているケースも少なくないのではないでしょうか。
「誰かがやるだろう」の精神で誰も進んで取り組もうとしない
「自分がせっせと動いたところで、対した変化は起きない」と考え、ワークスタイル変革へ積極的になれない人も存在します。やっかいなのは、ワークスタイル変革が進まなくても会社のビジネスは回っていることです。
ワークスタイル変革が進まなくとも、これまでのビジネスは継続されてきたので、たとえ変革プロジェクトが失敗に終わっても「大して困らない」という意識が広がってしまいます。そうした何となくうまくいっている現状が、次回の取り組みの際にもあきらめムードを生んでしまい、その度にワークスタイル変革は停滞していくのです。
「一部の企業だけが成功するもの」だと思い込んでいる
ワークスタイル変革に成功した事例を集めて「きっとこの企業だから成功したのだな」と、自分たちとは違う人だけが成功するものと、一線を引きたがるケースもあります。
日本人は事例を参考にするのを好みます。慎重派の人が多く、先行事例を確認して自分たちのワークスタイル変革をどう取り組めばいいか?を考えるのです。ところが、成功事例と自らが置かれている環境のギャップを過度に感じ取り、ワークスタイル変革に向けたチャレンジの思考が停止してしまうケースが少なくありません。
事例を参考にするのは悪いことではありません。しかし、偶像化してしまうと「ワークスタイル変革の成功には魔法のように特別な施策があるのだ」と思い込んでしまうことになりかねません。
「手段」であるはずのITが「目的」になっている
ワークスタイル変革を推進するにあたりIT導入を視野に入れている方も多いでしょう。ここで一番注意しなくてはいけないのが、「IT導入そのものが目的になってしまう」ことです。
ITはワークスタイル変革を推進するための「手段」であり、導入すれば成功するわけではありません。しかし、プロジェクトが開始すると「ITを導入したらワークスタイル変革が成功する」という意識が次第に芽生え、IT導入が目的化してしまう事例が多いのです。
ワークスタイル変革成功のポイント
上記のように、ワークスタイル変革が進まない理由はいくつもあります。思うように成果が上がらないという場合は、これらの理由と照らし合わせて、自社が同じような状況に陥っていないかを確認してみてください。
では、ワークスタイル変革を成功させるためにはどのポイントを押さえればよいのでしょうか。
実は、そう難しい話ではありません。前述したワークスタイル変革が進まない理由をヒントに、「そうならない状況」を作ればよいのです。
最初に「ワークスタイル変革=テレワーク」という固定概念を持っている方は、それを捨てましょう。自社にとってワークスタイル変革を成功させるポイントは、テレワーク導入ではないかもしれません。その他にも、柔軟な働き方を実現する制度はたくさんあります。働き方改革関連法案によってフレックスタイム制も拡充されたことですし、テレワーク以外の変革も視野に入れましょう。
そして、ワークスタイル変革は組織的に取り組むのではなく、経営トップとシームレスに連携した専門チームを設置して、スモールスタートをすることが重要であると言われています。組織的に取り組もうとすると複雑な指揮系統がプロジェクトの障壁になります。意思決定までのプロセスをシンプルにすることで、スピーディなワークスタイル変革へ取り組むことができます。まずは、「時短」を目的とするのではなく、子育てや介護など柔軟な働き方が望まれている人や部署から推進したり、ある特定の部署や事務所からペーパーレス化を推進し、紙ドキュメントを減らしたことによる働き方の変化により効率や結果がどう変わったのかの成果を計り、拡げていくといったスモールスタートで良いのです。
これらのポイントを押さえるだけでも、今までのワークスタイル変革とはまったく違ったアプローチになるはずです。
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