企業が中長期的に発展し続けるためには、利益の創出が不可欠であり、そのためには生産性向上に向けた戦略的なアプローチが不可欠です。そして、生産性の向上は近年さまざまな分野で重要課題となっているDXの推進にも深く関わるテーマです。本記事ではDXと生産性向上の関係性について解説します。
DXの目的
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、先進的なデジタル技術を活用し変革する概念です。現代はテクノロジーの加速度的な進歩・発展とともに市場の成熟が進み、商品やサービスがコモディティ化する傾向が強まっており、競争激化により参入市場における差別化が極めて困難な時代になっています。このような社会的背景のなかで競争優位性を高めるためには、競合他社にはない独自の顧客体験や製品やサービスの価値を創出しなくてはなりません。
そこで重要となる課題は、既存の組織構造や事業モデルの抜本的な変革です。コモディティから脱却し、イノベーションを実現するには、創造性を高める労働環境や先進的なITインフラの構築が求められます。また、市場の成熟化とともに多様化かつ複雑化する顧客ニーズを捉えるためには、勘や経験などの曖昧な要素に依存しない意思決定を支えるデータ分析が必要です。こうした経営基盤を整えるためには、AIやIoT、ロボティクス、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析基盤などの先進的なデジタル技術が欠かせません。
そしてデジタル技術の戦略的活用によって既存のビジネスモデルに破壊的な変革をもたらし、新たな顧客体験価値を生み出し、収益を向上させることがDXの本質的な目的です。また、AIやIoTなどの新しいデジタル技術の活用により、業務プロセスを合理化・省人化することで業務効率化が進み、労働生産性の向上にもつながります。それによって人的資源の投入量を削減しつつ産出量の増大が期待できるため、少子高齢化に伴う人手不足や就業者の高齢化といった課題を解消する一助となるでしょう。
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DXの現状
伸び悩む日本のデジタル競争力
国内ではさまざまな産業でDXの推進が喫緊の経営課題となっていますが、単なるIT化やデジタル活用にとどまる企業も少なくありません。その理由のひとつとして考えられるのが、国内におけるデジタル競争力の低迷です。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」(※1)によると、日本は世界デジタル競争力ランキングにおいて、調査対象国63カ国中29位、主要先進7カ国中6位となっています。日本は国内総生産(GDP)が世界第三位の経済大国でありながら、主要先進国のなかで相対的にデジタル化が遅れている傾向にあり、それがイノベーションの創出を妨げる原因のひとつと考えられます。
(※1)参照元:世界デジタル競争力ランキング 2022|IMD
迫りくる「2025年の崖」
国内でDXの実現が重要課題となっている背景にあるのは「2025年の崖」です。経済産業省は「DXレポート(※2)」のなかで、老朽化・ブラックボックス化したITシステムがイノベーションを妨げる要因となっており、レガシーシステムが残存した場合、2025年以降に12兆円規模の経済的損失が発生する可能性があると指摘しました。このレガシーシステムの残存による問題を「2025年の崖」と呼びます。とくに国内ではIT革命が発生した2000年代の前後にメインフレームを導入する企業が増加しており、その時期に基幹系システムを構築した組織はITインフラのモダナイゼーションが急務となっています。
(※2)参照元:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(p.26)|経済産業省
DX人材の不足
DXを実現するためには、単にデジタル技術を導入するだけでなく、実装したソリューションを活用して組織構造やビジネスモデルの変革を推進できるDX人材が必要です。しかし少子高齢化の影響で人手不足が深刻化する中、DX人材を確保するのは容易ではありません。また、慢性的な労働力不足からDX人材がノンコア業務に従事せざるを得ず、変革に向けた行動にリソースを割けないという企業も少なくないでしょう。さらにDX人材を採用・育成するためには相応のコストが必要です。大企業のように豊富な資金調達手段をもたない小規模事業者や中小企業の場合、DX人材の確保にコストを投じるとIT投資に回す資金を確保できないという課題もあります。
DX人材の確保には生産性向上が急務
組織構造や事業形態の抜本的な変革を推進するためには、企業価値の向上に直結するコア業務にDX人材を投入しなくてはなりません。そのためには生産性を向上させ、ノンコア業務に対するDX人材の投入量を最小化しコア業務に従事できるようにすることが重要です。生産性とは投入した経営資源に対する成果の割合を示す指標で、「生産性=産出量÷投入量」という数式で算出されます。したがって、生産性を高めるためには、より少ない経営資源でより多くの成果を生み出す方法を考案しなくてはなりません。
そこで重要なキーワードとなるのが、既存業務の効率化による労働生産性の向上です。生産体制や作業工程を現状より効率化することで、より少ない労働投入でより多くの付加価値額を創出することが可能となり、余剰の人的資源をコア業務に集中的に投入する余地が生まれます。これにより、貴重なDX人材をノンコア業務に投じる必要がなくなり、変革の推進につながる業務領域にリソースを集約できるというメリットが生まれます。
冒頭で述べたように、DXの推進によって業務プロセスを合理化・省人化できれば、業務効率化による労働生産性の向上が期待できます。しかしDXを推進するためにはDX人材の確保が不可欠であり、そのためには既存の業務を見直して生産性の向上を図り、ノンコア業務に対するDX人材の投入量を最小化しなくてはなりません。つまり、DXの実現が生産性の向上に寄与し、DXの実現には既存業務の効率化による生産性向上が必要という、相互補完的な関係にあると言えます。
生産性を向上させる目的とメリット
生産性を高める目的と、それによって得られる主なメリットは以下の3点です。
国内外での競争力向上
公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022(※3)」によると、日本の時間あたりにおける労働生産性はOECD加盟国38カ国中27位となっているのが現状です。デジタル化の遅れやレガシーシステムの残存、そして生産性の低さはDXの実現を妨げる要因であり、現状のままでは日本は年々激化する国際競争に取り残されかねません。ITインフラのモダナイゼーションや既存業務の効率化を通じて、組織全体の生産性を向上できれば、国内での企業競争力を高めるだけでなく、国際競争力の向上が期待できます。
(※3)参照元:労働生産性の国際比較2022(p.1)|公益財団法人日本生産性本部
職場環境の改善
生産性向上の主な方法は、「生産体制の改善による合理化」と「業務のデジタルシフトによる省人化」です。生産体制におけるムダやムラを排除するか、あるいはITシステムの導入により作業工程を自動化し既存業務を効率化できれば、最小の人的資源で従来と同等以上の労働生産性を確保できます。つまり、DXの一環として単純作業をIT化することで、ヒューマンエラーを減少させ、手戻りをなくし歩留まりを上げることが可能となるため、生産性が向上するのです。
また、他にもメリットがあります。それは、長時間労働の是正と残業時間の削減です。ワークライフバランスを整えることで離職率や定着率の改善に寄与し、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。職場環境の改善によって働く意欲やモチベーションが向上し、新たなアイデアの創出や知識の習得などに取り組むことで、イノベーションにもつながります。
人手不足の解消
内閣府の「令和5年版 高齢社会白書(※4)」によると、日本の総人口は2010年をピークに下降の一途を辿っており、生産年齢人口は1995年の8,716万人を頂点として減少し続けています。そして2050年の生産年齢人口は5,540万人にまで減少すると見込まれているのが国内の現状です。さらに日本の総人口に占める高齢者の割合は29.0%と世界で最も高く、さまざま産業で労働力不足と就業者の高齢化が問題となっています。生産体制の改善や業務のデジタルシフトによって生産性を向上できれば、生産年齢人口の減少に伴う人手不足を解消する一助となります。深刻化しているDX人材不足の確保にも貢献します。
(※4)参照元:令和5年版 高齢社会白書(p.2,4,6)|内閣府
生産性向上を阻む要因
組織の生産性向上を阻害する主な要因として以下の3点が挙げられます。
リモートワークができない環境
「平成29年版 情報通信白書(※5)」によると、リモートワークやテレワークを導入している企業は、導入していない企業と比較して売上高と経常利益が増加傾向にあります。このことから、リモートワークが生産性の向上に有効であることがわかりますが、そのためにはリモートワークに最適化されたデジタルワークプレイスを整備する必要があります。
リモートワークの導入によって生産性が低下した事例は少なくありませんが、その主な原因は通信回線や設備などの働く環境が整備されていない、不完全な形のリモートワークにあると言えます。また、リモートワークに対応できない職場環境では、育児や介護などの事情を抱える人材の雇用が難しくなります。これにより、DXの推進に貢献できる優秀な人材が流出し、結果として組織全体の生産性が低下するリスクが懸念されます。
(※5)参照元:平成29年版 情報通信白書(p.180)|総務省
アナログな業務管理
生産性の向上を阻む要因のひとつは、旧態依然としたアナログ形式の業務管理です。代表的な事例としては、紙の書類による社内稟議が挙げられます。例えば、経費精算や有給休暇の申請書を提出する場合、「申請書の作成」→「申請書の提出」→「上長の承認」→「管理部門に提出」という一連のステップが一般的です。この稟議プロセスを紙の書類で管理する場合、書類の準備や回覧などのノンコア業務に多くのリソースを割かなくてはなりません。ワークフローシステムを導入して社内稟議を効率化・自動化できれば、ノンコア業務にかかるリソースの削減が可能となり、生産性の向上が期待できます。
情報の分断
ITシステムやデータのサイロ化も生産性の向上を阻害します。たとえば会計システムや販売管理システム、在庫管理システムなどの基幹系システムは、それぞれの部門で個別に管理されているのが一般的です。この場合、各システムによってファイルの保存形式やデータの粒度が異なり、さらに情報の重複や欠如が発生するリスクもあります。これらは、普段利用しているファイルにも言え、ファイルサーバーが部署や業務、プロジェクトごとに乱立していると必要な情報が分断された状態で部門間連携に遅滞が生じ、社内コラボレーションを阻害する要因になります。したがって、組織全体の生産性を高めるためには、いかにして全社横断的なファイル共有基盤を構築するかは重要な取り組みになります。
生産性向上のための業務改善のポイント
生産性が向上すればDX人材が付加価値の高いコア業務に注力できます。先述したように、生産性を高める主な方法は「生産体制の改善による合理化」と「業務のデジタルシフトによる省人化」の2つが基本となります。それを実現する代表的な施策が以下の3点です。
課題の再認識
生産体制の改善による合理化を図るためには、既存の業務プロセスにおける課題を再認識しなくてはなりません。そのためには既存業務の全工程を洗い出して言語化・数値化し、全体像を俯瞰的に可視化するプロセスが必要です。既存業務を客観的な視点で全体的に評価できれば、ボトルネックとなっている領域を特定しやすく、その解決に向けたアプローチ方法を立案・策定するのに役立ちます。
業務プロセスの見直し
既存業務のプロセスを可視化し、課題や問題を明確に把握できた場合、そのボトルネックを解決する具体的なアプローチ方法を策定し実行に移します。例えば、問い合わせ対応のようなノンコア業務に多くのリソースを割いている場合、外部のコールセンター代行サービスを利用するか、AIチャットボットを導入してメール対応を自動化するなどの施策が必要です。業務プロセスの非合理的な領域を定期的に確認すること、PDCAサイクルを回して改善を継続的に行うことが、生産性の向上には不可欠です。
システムの活用
課題解決のための施策が決定された後、それを実現するためのシステムを導入します。情報の分断がボトルネックとなっていると仮定した場合、その解決に寄与するシステムとして挙げられるのがコンテンツクラウドです。コンテンツクラウドはデジタルワークプレイスの中心を担い、インターネットを通じて、いつでも、アクセス権さえあれば誰でも、どんなデバイスでもファイルをパブリック環境で共有できるため、組織内や企業内に分散しているデータを一元的に管理するプラットフォームとして、サイロ化を解消できます。昨今の業務では、社外の関係者とも情報を共有しながら進めることも多いため、セキュアで円滑な社外とのファイル共有にも効果的です。
また、コンテンツクラウドはリモートワーク環境におけるファイル共有基盤としても有効です。Boxは、セキュリティ機能として7段階のアクセス権限設定や多要素認証の機能を備えており、さらに国際的なISO規格のセキュリティ認証を取得しています。それにより、セキュアなクラウド環境でさまざまなビジネスデータを一元的に管理しつつ、全社横断的な情報共有を実現するコンテンツクラウドとしての運用が可能です。
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まとめ
「DX」は先進的なデジタル技術の活用で変革を進める概念です。「生産性」は経営資源の投入量に対する成果の割合を表します。DXと生産性は、相互補完的な関係にあります。DXの実現が生産性向上に寄与する一方で、DXの実現には既存業務の効率化が不可欠だからです。生産性を高めるためには、「生産体制の改善による合理化」と「業務のデジタルシフトによる省人化」の2つが基本となります。成熟化が進む国内市場のなかで競合他社との差別化を図り、独自の顧客体験価値を創出するためには、DXの実現と生産性向上に向けた革新的なアプローチが必要です。そして、これらを実現する鍵は情報共有であり、DXを推進する上で不可欠といえるでしょう。
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