コロナ禍により、業務への取り組み方が大きく変わった企業は少なくありません。特に企業の監査部門では、従来のようにオフィスの会議室にこもって行うといった監査はできず、どうすればよいのかと頭を悩ませる担当者が増えています。そこで、本記事ではコロナ禍で注目を集めているリモート監査について概観し、成功に導くポイントを併せて解説していきます。
リモート監査とは?
企業における内部監査では業務の効率を評価し、社員による不正やガバナンス違反などがないかなどを調査、分析します。このような内部監査を対面ではなく遠隔で実施する形式をリモート監査と呼びます。ここではリモート監査の概観を確認していきます。
コロナ禍で導入が進む「リモート監査」
従来の内部監査は、監査部門に属する社員によって対面で行われてきました。監査の対象となる部門に足を運び、直接業務の流れや社員の行動をチェックしていた企業も多いでしょう。
近年、新型コロナウイルスのパンデミックで、多くの企業が感染対策に追われました。社員の感染リスクを避けるためにテレワークを導入する企業が一気に増えた結果、対面型での監査では対応できないケースが増加しました。そこで、非対面式のリモート監査を導入する企業が増えたという経緯があります。
一般社団法人日本内部監査協会が行った「新型コロナウイルス感染症の内部監査への影響に関するアンケート調査(アンケート実施期間:2020年5月29日~6月5日)」からも、多くの企業が従来の内部監査に限界を感じていることがわかります。
このアンケート調査によれば、新型コロナウイルスの影響によって「監査の手法を見直した」と答えた企業が50.8%にも上りました。さらに、「年度の監査計画を見直した」が51.3%、「個別の監査計画を見直した」と回答した企業は53.1%でした。
企業におけるリモート内部監査で重視すべき項目
テレワークへの移行により、社員は従来と異なる環境下で業務を遂行しなくてはならなくなりました。テレワーク環境下においては、セキュリティ対策や仕事に対するモチベーション、労働生産性の低下、コミュニケーションやコラボレーション不足による業務への影響、メンタル・健康管理の難しさなどさまざまなリスクが新たに発生しています。これらのリスクを適切に評価するためにも、従来のオフィス勤務とは異なり、管理者の目が行き届きにくいという実情を踏まえた適切な監査手法の確立が望まれます。
また、リモート監査では、個々の社員が適切に端末を管理できているか、業務時間の超過が発生していないかなどを非対面でチェックする必要があります。効率よく業務をこなせる環境が整っているか、コミュニケーションやコラボレーションツールをきちんと活用できているかなども重視して監査を行うべきポイントです。
内部監査をリモートで実施するメリット
まず、訪問による内部監査では移動時間と交通費がかかります。特に監査対象が複数あり、それぞれの就業場所が離れている場合、監査をする社員は業務時間を移動によって奪われ、労働環境の悪化を招いてしまう可能性があります。しかし、リモート監査はオンラインで実施されるため、監査担当者が社員のもとへ足を運ぶ必要がありません。監査部門の労働時間や移動費を削減できる点はメリットでしょう。
また、2021年10月時点では感染者数が減少しつつあるものの、コロナウイルスによるリスクが完全になくなったわけではありません。引き続きの感染対策が求められている状況では、対象と直接会わずに調査や分析を行えるリモート監査は、感染リスクを回避できる監査手法として望ましいと言えます。
さらに、リモート監査を実施できれば、テレワーク環境下でも適切な監査業務を遂行できます。これは企業のガバナンスを維持し、適切な事業継続を促します。そういった意味では、リモート監査には、リモート内部統制も必要となります。
コロナ禍で浮き彫りになった、リモート監査の課題
コロナ禍で注目を集めたリモート監査ですが、一方で課題も浮き彫りになりました。リモートで監査を完結するには、電子承認システムの導入やペーパーレス、脱ハンコなど、管理体制の変革に取り組む必要があります。
特に経理書類の電子化は必須です。監査担当者は経理書類に目を通し、必要に応じて担当者に質問をします。ペーパーレス化ができていないと、書類を手渡しして対面で監査を実施しなければなりませんし、誰がどのファイルにアクセスしたかのログも取れません。
また、電子化したデータを扱う場合の課題もあります。一般的に情報共有システムを利用してデータを共有しますが、監査に関わる人にのみに権限を付与できるような機能を搭載したシステムでないと、情報漏えいのリスクが高まります。そのため、システムの導入にあたっては、効率よくデータのやり取りを行えるだけではなく、堅牢なセキュリティ機能を持つ製品を選ばなくてはなりません。
リモート監査は非対面で行われるため、従来のようにコミュニケーションがとりづらく、双方で認識のずれが生じるおそれがあります。リモート監査の不手際から会社に不満を持つ可能性も考えられる点には注意が必要です。ZoomやMicrosoft Teamsといったコミュニケーションツールの活用も検討すべきでしょう。
課題解決!リモート監査を成功へ導く3つのポイント
リモート監査をやみくもに導入した企業において適切な監査が達成されず、結局アナログな方法に逆戻りしてしまうケースもあります。リモート監査導入にあたっては、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
企業のデジタル化を実現するツールの導入
リモート監査を実施するには、適切な管理を実施できるデジタルな環境を構築しなくてはなりません。そのため、デジタル化をサポートしてくれるツールを積極的に導入することをおすすめします。
まずはペーパーレスや脱ハンコ化を実現できるツールの導入を検討してください。該当するのは、電子契約サービスやワークフローシステムなどです。また、クラウドストレージサービスを導入すれば、電子化した情報をクラウドに保存でき、共有も容易です。コンテンツ管理機能を持ったクラウドストレージであれば、誰がどのファイルにいつアクセスしたか、改ざんの有無等々、監査や内部統制に必要となる情報も取得できます。他にもPCの使用状況を記録するツールも実態を把握するのに役立ちます。
ただし、ITツールを導入しても、社員が使いこなせないようでは意味がありません。必要な機能が搭載されているだけではなく、使い勝手のよさも重視してくださいまた、機能性や操作性が似通ったツールでも費用が大きく異なるケースもあるため、注意が必要です。トライアル期間が設けられているツールを試してから、最終決定してもよいでしょう。
リモート環境を意識したコミュニケーションの工夫
非対面のリモート環境では、対面時のようなコミュニケーションがとりにくい状況が発生しやすいと言えます。そのため、監査対象とのコミュニケーションを円滑にできるような工夫が求められます。
たとえば、できるだけ具体的かつ、詳細な説明を心がける姿勢はコミュニケーションの円滑化に貢献します。対面では、双方で資料を確認しつつ監査を進められますが、リモート環境では困難です。従来では簡単な説明で終わるような監査であっても非対面では話が伝わりにくいため、説明に丁寧さが求められます。
インタビュー時間を明確に定めるのもポイントです。オンラインでのやり取りは時間が長くなりがちですし、時間の経過に伴って監査対象の集中力も失われていきます。時間は事前に短めかつ明確に設定しておきましょう。
監査業務自体を効率化するツールも積極的に導入を
リモート監査そのものを効率化できるツールもリリースされています。たとえば、前述のビデオ会議システムを導入すれば、監査時に必要なインタビューをオンラインでスムーズに行えます。お互いの顔を見ながら監査を実施できる環境の整備は、円滑なコミュニケーションをサポートします。
また、自動計算チェックツールもおすすめです。これは有価証券報告書の計算チェックを自動で行えるツールですが、監査業務をサポートしてくれるため導入して損はないでしょう。
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まとめ
コロナ禍により需要が増したリモート監査ですが、成功させるには監査の対象となるコンテンツを管理するシステムの導入やオンラインでのコミュニケーションの工夫が必須です。やみくもに導入せず、本記事でお伝えしたポイントを踏まえて検討してみましょう。
また、リモート監査に向けたデジタル化は、情報分散の防止や業務効率化など、さまざまなメリットをもたらします。組織全体の生産性向上にもつながるため、これを機にデジタル化を積極的に進めてみてはいかがでしょうか。
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