「在宅勤務」と「テレワーク」、どちらもこの頃よく耳にする言葉の1つです。政府の「働き方改革」は柔軟性の高い労働環境を整えることで、多様な人材が活躍できる社会を目指す「一億総活躍社会」に向けた柱であり、これを広く普及させるために在宅勤務及びテレワークの導入を推奨しています。
本稿では、混合されがちなこれらの言葉の違いについて解説します。さらに、普及させるためのポイントについても解説しますので、今後導入を検討している方々はぜひご参考にしてください。
在宅勤務とテレワークの違い
在宅勤務とは文字通り「自宅で仕事をすること」です。本来、仕事とはオフィスに従業員が集まり(出社)、連携しながらさまざまな業務を遂行することですが、最近ではICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の発展により、出社が不要な業種も少なくありません。特にIT関連企業の場合、業務のほとんどがパソコン1つで完結しますし、いくつかのコミュニケーションツールを使用すればオフィスで仕事をしているのと同等の情報共有や共働(コラボレーション)が可能なため、在宅勤務を実施するケースが増えています。
一方、テレワークとは「Tele(離れた)」と「Work(仕事)」を掛け合わせた造語であり、「離れた場所で仕事をするための環境」を意味します。すでにお気づきかも知れませんが、在宅勤務はテレワークの一種です。
政府がテレワーク導入を推奨する理由は、子育て・介護世代の人材に多様な働き方を提供し、労働の柔軟性を確保することにより労働力不足を補い、高い経済損失を回避するためです。それを受け入れ、テレワークを導入する企業は生産性向上や離職率低下など、会社の利益につながるような効果を期待しています。
テレワークの種類
大まかに分類すると、在宅勤務・モバイルワーク・サテライトオフィス・テレワークセンター・スポットオフィスの5つに分けられますが、皆さんはどのテレワークを検討中でしょうか?違いがよくわからない、まだ決まっていないという方のために、それぞれの概要をご説明します。
1. 在宅勤務
主に自宅を職場として、オフィスにいる従業員とはICTを活用してコミュニケーションを取りつつ仕事をこなします。通勤時間を無くすことで、プライベートに割く時間が増えてワークライフバランスを保ち、生産性向上が期待できます。子育てや介護等により、自宅を離れにくい人も働くことができます。人によっては付近のカフェなどで仕事をしたり、個人的にレンタルオフィスを使用したりするケースもあります。
2. モバイルワーク
特定のオフィスに依存せず、どこでも仕事が可能な状態を整えるものです。取引先のオフィスで一定期間仕事をすることもあれば、カフェや移動時間を利用して事務作業をこなすことも含まれます。ただし特定派遣とは違います。派遣会社と常時雇用契約をしつつ、労働力を必要としている企業に派遣される特定派遣社員は、派遣先からの給与が発生しますが、モバイルワークの場合は発生しません。
3. サテライトオフィス
本社オフィスや支社オフィスの周辺、または遠方に個別にオフィスを設置して通勤や本社オフィス等との行き来に時間がかかる従業員にとって働きやすい環境を整えます。オフィスが衛星(サテライト)のように存在することから名づけられました。サテライトオフィスを導入する企業の中には、地方に民家等を改造してオフィス化し、田舎暮らしに憧れていた従業員に新しいオフィスを提供し、さらに地方拠点として販路拡大を目指すなど事業戦略に一貫として導入するケースも増えています。
4. テレワークセンター
テレワークの導入を前提に、ICTが整えられた共同利用型施設です。コワーキングスペースやシェアオフィスに類似していますが、テレワーク導入企業が利用することからコンセプトに違いがあります。
5. スポットオフィス
出張者やモバイルワーカーが気軽に立ち寄り、仕事をするための簡易オフィス空間をスポットオフィスといいます。まだまだ導入率は低いですが、コストと利便性のバランスが良いので今後拡大する可能性があります。
在宅勤務の導入を阻む壁とは?
テレワークにはたくさんの分類があるので、「自社にとって適切なスタイルは何か?」と悩んでしまうことも少なくないでしょう。多くの企業は、最も導入しやすい在宅勤務を試験的に実施しています。ネットワーク環境は自宅のWi-Fiを使用すればよいですし、企業としては最低限のICTを導入すればテレワークを実践できるのがメリットです。
モバイルワークは外出先でも常にネットワークに接続できる環境を整える必要がありますし、サテライトオフィスなどでは新しいオフィスの設置はレンタルが必要なので、手間とコストがかかります。
ところが、在宅勤務も現実にはさまざまな課題があり、思うように普及が進まないことがあります。総務省の調べによれば、2017年時点のテレワーク導入企業は13.9%であり、そのうち在宅勤務を導入しているのが29.9%です。2017年の企業総数は約382万社なので、在宅勤務を導入している企業はわずか15万8,700社となります。
参考資料『平成30年版 情報通信白書』、『2017年版中小企業白書 概要』
まず、「マネジメントの方法を変えられない」という課題があります。在宅勤務に対するにニーズが従業員間で高まっても、上司がその管理に不安を抱えるというケースが多いでしょう。従来は部下の仕事を直に観察し、「報・連・相」を通じてコミュニケーションを取るのが習慣になっている管理職にとって、自分の目の届かないところで仕事をされるということに不安を感じます。ただしこれは、部下に仕事を任せきれない管理職にも問題があり、マネジメントの規則や業績評価の指標を変える必要があります。
次に「働きすぎてしまう」という課題です。在宅勤務を導入すると生産性が向上し、労働時間が短くなるとの見解もありますが、実際は目の前で管理されていないことから、思わず通常よりも働きすぎてしまうことも多いようです。問題は、それを会社が把握できないことです。在宅勤務者は、オフィス勤務者に対する罪悪感や在宅勤務がうまくいっていることをアピールするために「たくさん仕事をしなければ」と考える傾向にあり、精神的プレッシャーを感じています。その結果、ストレスや長時間労働といった問題が発生し、過労にいたるケースもあります。
テレワークを含めた働き方改革には、それを支えるICT/ITの環境、制度、そして文化の3つが重要と言われています。自社でテレワークや在宅勤務を導入、推進していくためには、まずこれらのポイントに真摯に向き合い、自社の現状を把握し、もし課題があれば1つ1つ解決しながら導入を進めていくことがとても大切です。課題を残したまま無理に導入しても成果が上がらず、大きな損失を生む可能性があります。メリットの多いテレワーク導入ですが、まずはそれぞれの課題に向かうこと自体が、テレワークを推進、普及させる一番のポイントとなっています。
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