本記事は2019年7月開催Box World Tour Tokyo 2019 で行われた「知財 × Box ~知的財産部門でのリアルなクラウド活用法~」のセッションレポートです。このセッションでは、知的財産部門の業務とはどのようなものか、Boxを活用して何のコンテンツを、誰と、どのようにコラボレーションし、業務効率化やコスト削減につなげているかが具体的に紹介されました。
講演者:JFEテクノリサーチ株式会社 知的財産事業部 特許出願部 技術グループ(副課長) 弁理士 吉田 真衣 氏
JFEテクノリサーチではBoxを特許申請などの業務でフルに活用している。同サービスに携わる知的財産事業部の特許出願部では、顧客企業の知財をグローバルに保護するために、世界各国の特許事務所と関連文書のやり取りなどを頻繁に行っている。FAXと郵送にかかっていた工数と通信コストを各々年間294時間と数千万円削減に成功した。
世界70カ国での特許出願に関する業務をBoxでフル運用
特許出願部が日々連絡を取り合う海外事務所の数は86、出願国数は70カ国にわたり、常時扱っている特許の数は約1万2000件に上る。「取り扱う文書は英語をはじめさまざまな言語で書かれており、各国から届く多様な言語の書類を優先順位を付けて仕分けし、効率的に処理していくことが、業務を効率化するうえで大きな鍵となります」と技術グループの吉田真衣氏(副課長 弁理士)は話す。
Boxを導入する以前、特許出願部には特許関連の書類が1日当たりFAXで約400枚、郵便物で約1600枚届いていた。言語や形式が異なるそれらの書類を作業グループごとに仕分けるのに約半日を要し、担当者に書類が渡るまでに数日かかることもあった。「特許出願部の全員が書類に埋もれて仕事をしており、FAXや郵送を廃止して大量の紙を何とか電子化できないかと思いながら書類と格闘する毎日を過ごしていました」と吉田氏は振り返る。
そんな状況に居ても立っても居られなくなった吉田氏は、手間のかかるFAXと郵送から電子メールかクラウドサービスへの移行を上司に提案し、2017年に会社の承認を得る。その後、出産のため1年休職した後に職場復帰すると、「FAXと郵送を廃止してBoxを使うことが決まっていました」(吉田氏)。Boxを採用した理由は親会社のJFEスチールが導入したからだ。
Box導入の担当者に任命された吉田氏は、当初は「1人でやれるだろうか」と不安を感じるが、Boxはファイルサーバの一種だと考え、「フォルダ構成」と「ファイル名のルール」、「権限」さえ決めれば問題なく使いこなせることに気づいたという。
「自分の子どもたちが単純な形のブロックを組み合わせていろいろなものを作るのですが、Boxはこのブロックで街を作る感覚と似ています。フォルダ構成とファイル名のルール、権限の3つを組み合わせれば、業務フローにあった設計を自由に行えるからです」。(吉田氏)
5つのフォルダと独自の命名ルール、権限により、文書送受信をFAX&郵送からBoxに完全移行
吉田氏の着想を基に、特許出願部では業務に最適化したBoxの使い方を実践している。その中心となるのが、Box内に作られた次の5つのフォルダだ。
- 送信フォルダ
- 受信フォルダ
- 作業フォルダ
- 決裁フォルダ
- 保管フォルダ
このうち、送信フォルダと受信フォルダは海外事務所との共有領域とし、これらに電子文書をアップロードおよびダウンロードすることで文書の受け渡しを行う。残る3つのフォルダは自社専用領域であり、海外事務所から届く文書は最初に作業フォルダに仕分けし、決裁フォルダ内で必要な決裁を経て、最終的に保管フォルダで保管される。
なお、専用領域と共有領域との間では文書をコピーしてやり取りを行い、図中の赤枠で囲んだ2つの領域では同一のデータを残してフェイルセーフとしている。
以下、上記5つのフォルダをどう工夫して使っているのかを簡単に説明する。
受信フォルダ
海外事務所から文書を受け取る受信フォルダ内には、それぞれの特許のステータスに応じて「000」、「010」、「020」といった番号を付した複数のフォルダを作成している。これらの番号は目視でも検索でも見つけやすく、吉田氏はこれを「郵便番号」と呼んでいる。それぞれの海外事務所は、自分が送る特許文書を、そのステータスに応じたフォルダにアップロードする。
特許出願部では、作業グループごとに担当するフォルダを毎日確認し、受信作業を行っている。従来は半日ほどかけて紙の文書を各作業グループ向けに仕分けていたが、Boxへの移行でその作業は不要となった。
送信フォルダ
送信フォルダは、JFEテクノリサーチから海外事務所への文書送信目的で使用する。やり取りする海外事務所ごとにフォルダを作り、各事務所は自分のフォルダだけにアクセスすることができる。
各事務所のフォルダ名には、先頭に送信用であることを示す「TO」を記し、次にUS、EPなどの「国コード」、さらに同じ国に複数の事務所があるので「通し番号」を付けた後、最後に「事務所の名前」を記述している(例:「TO_AR_01_ARPO」はアルゼンチンのARPOという事務所宛の送信フォルダ)。
「例えばアルゼンチンの特許事務所に送信する際には、Boxの検索欄に『TO_AR』と入力するとアルゼンチンの事務所の一覧が表示され、目的の送信先を簡単に見つけられます」。(吉田氏)
作業フォルダ
受信フォルダで受け取った文書は手作業で作業フォルダにコピーされ、社内処理が開始される。作業フォルダの中は、作業ステータスに応じて「受信」、「送信準備」などのフォルダに細分化されており、各文書はステータスに応じてそれらのフォルダ内を移動していく。これらのフォルダにもステータスに対応した3ケタの郵便番号が付記されている。
決済フォルダ
文書によってはステークホルダーの決裁が必要となるものがあり、それらは決裁フォルダに入れられる。決裁フォルダ内には決裁者ごとにフォルダが用意され、さらに各決裁者のフォルダの中には「未決」、「既決」の2つのフォルダが作られている。決裁が必要な文書を「未決」フォルダに置いておくと、決裁者が決裁を行って「既決」フォルダに移動させるという流れになる。
保管フォルダ
保管フォルダは全ての文書が最終的に保管される場所であり、多くの社員が頻繁に文書の出し入れを行う。そのため、他のフォルダとの判別が瞬時に付きやすいよう、先頭に「777」という郵便番号が付けられている。保管フォルダ内には約3万件の特許案件ごとにフォルダが作られ、それぞれの特許案件フォルダの先頭には特許管理番号が付けられている。Boxの検索欄に「777」と「特許管理番号」を入力すれば、目的の保管フォルダをすぐに見つけられるという仕組みだ。
文書の受領確認にも独自の工夫
前述のように、海外事務所との文書のやり取りは送信フォルダと受信フォルダで書類をアップロードおよびダウンロードして行うが、吉田氏らはその方法にも工夫を凝らしている。
特許手続きは期限厳守のため、文書の受領確認を送り合うのが世界の共通ルールだ。例えば、海外事務所とFAXをやり取りする場合、JFEテクノリサーチからのFAXを受け取った海外事務所は、その文書に受領印を押してFAXで返送し、受領確認としていた。
この受領確認の手段として、当初はBoxのアクセス履歴機能の活用を検討していた。しかし、最初にトライアルを行ったある国で国家の検閲と思われるアクセスがあり、特許事務所が受信したのか、それとも検閲を受けたのかが分かりづらいという問題が発覚したという。
そこで急遽別の方法を検討した結果、次の方法を採用した。JFEテクノリサーチから送る文書が送信フォルダ内の海外事務所のフォルダにアップロードされると、受信(アップロード)を確認した海外事務所では受信した文書(やフォルダ)の名前の先頭にReceivedの略記として「RCVD」を記入する。JFEテクノリサーチでは、この文字列の有無を見ることで先方に文書が届いたかどうかを確認するわけだ。
「こちらから送信した文書をBoxの『お気に入り』に登録しておくと、画面左側のメニューで常に確認できるようになります。送信先の事務所が受信を確認してファイル名の先頭に『RCVD』が付いたら、送信完了としてお気に入りから外します。こうしてBoxで受領確認まで行えるようになったことで、FAXを送り合っていた頃よりも送受信にかかる時間と労力が大きく削減されました」。(吉田氏)
海外事務所からの文書名もルール化し、対応を効率化
もう1つの工夫として、海外事務所から受け取る文書の名前もルール化している。
「各国の事務所が混乱しないよう、簡単でわかりやすいルールにするために検討を重ねました。具体的には、先頭に『特許管理番号』、次に『文書の内容を示すタイトル』を英語で書き、さらに至急の場合には『URGENT』を付けるよう依頼しています」(吉田氏)
【海外事務所から受け取る文書の名前付けルール】 特許管理番号+内容がわかりやすいタイトル+(至急時:URGENT) ↓ 文書の受信を確認したら次に変更 RCVD_特許管理番号+内容がわかりやすいタイトル+(至急時:URGENT) |
このルールにより、タイ語やアラビア語で書かれた文書であっても、いちいちファイルを開かずに文書名を見るだけで内容を判別できるようになった。フォルダ内に沢山の文書が並んだ状態でも、至急の文書は「Urgent」ですぐに見つけられる。
ITスキルなしの担当者が約6カ月で導入。数十名の作業時間を294時間/月、通信コストも数千万円/年の大幅削減
JFEテクノリサーチでは、吉田氏が1人で担当したBox導入を約6カ月で完了した。「ITスキルのない私がわずか6カ月で導入を成功させられたのは、上司や同僚の協力と、Boxのシンプルさや各国の事務所に受け入れられやすいユニバーサルデザインのおかげ」だと吉田氏は話す。
こうしてさまざまな工夫をこらしながら世界中の特許事務所との文書のやり取りに活用されているBoxは、JFEテクノリサーチにさまざまなメリットをもたらしている。Box導入以前はFAXと郵便で1日に約2000枚もの書類が届き、それぞれの担当者が書類の開封、押印、仕分けなどの作業に忙殺され、最終的に顧客に文書を納品するまでに数カ月かかることもあった。
これに対して、Box導入後は書類の受け付けがクラウドに一元化され、あらかじめ受信フォルダを担当グループごとに分けておくことで仕分け作業が大きく軽減された。データを複数の担当者にコピーすることで並行作業が可能となり、早いものでは翌日の納品が可能になったという。結果的に数十名が働く特許出願部の1カ月当たりの作業時間を294時間削減できたほか、従来FAXと郵送にかかっていた通信コストが年間で数千万円削減された。
なお、特許出願部では、Boxと電子メール、期限管理のために使っている管理システムなどをRPA(Robotic Process Automation)で連携させ、自動化によって作業工数やコストをさらに削減する取り組みを進めている。
JFEテクノリサーチでは、創意工夫を凝らしてシンプルなBoxをフルに業務に組み込み、高い効果を得ていることがおわかりいただけたと思います。これらの創意工夫には他の業務分野に応用や実践できるアイデアや利用法が多々あるため、ぜひ参考にしていただきたい。
企業概要
JFEテクノリサーチ株式会社
https://www.jfe-tec.co.jp
JFEテクノリサーチは、2004年10月1日に、川鉄テクノリサーチ(株)、鋼管計測(株)、日本鋼管テクノサービス(株)の3社が合併し、発足した会社で大手鉄鋼メーカーであるJFEスチールの100%子会社である。ナノ領域から大型構造物までを対象に最先端の分析・試験設備を用いた信頼性の高い材料分析・解析、環境調査などのサービスを提供するほか、新技術の市場性や関連特許の調査、特許出願の支援などを行う技術調査・知的財産サービスを提供している。
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